外もだいぶ暗くなった頃、営業時間が終わってお店の片付けも終わった。



「おつかれさま〜」
「お疲れさまでした」
「なまえちゃんすごいね!もうお仕事覚えちゃったんじゃない?」
「みなさんが教えてくださったからです」
「次からは研修中のプレートも外して構わない。じゃあな」



店長が外に出ると山田さんを残した全員がぞろぞろそれに続く。あれ?山田さんは帰らないんだろうか。



「…山田さん、いいんですか?」
「ん?あぁ、あいつは店に住んでるから」
「???」



車に乗り込みながら聞くと潤さんはなんでもない事のように言う。
もしかして屋根裏から出てきたのはあそこに住んでるからなのかな。というかあの店については聞きたいことが多すぎる。



「潤さん、久しぶりに外で呑みません?」
「あぁ、たまにはいいな」






普段は潤さんの部屋でだらだら呑むけど、今日はなんだか外で呑みたい気分。潤さんも乗ってくれたから近場の学生に優しい値段設定のお店に行く。



「じゃあ俺はとりあえず生」
「カシスウーロンください」



ボックス席に通されて小さく乾杯する。ここは値段の割に落ち着いてる雰囲気でゆっくり話をしたい時にぴったりだ。



「…で?どうだよ初出勤の感想は」
「楽しい、かな。でもなんか普通じゃない、よね」
「まぁ普通、じゃねェな」



運ばれてきたサラダをつつきながら聞くと潤さんは軟骨の唐揚げを食べながら少し笑う。



「まずさ、伊波さん?あの人なんで男性恐怖症なんですか?なんか過去に嫌なことあったとか?」
「いや、なんか父親に小せぇ頃から洗脳まがいの事されてたらしい」
「あー、男は怖いんだぞ〜って?」
「まぁそんな感じだな」
「だいたいそういう事言う父親って過去に自分がどんなに危険だったか告白してるようなもんなのにどうして気づかないんだろう」



私も唐揚げを食べながらぼやくと潤さんは焼き鳥を食べて苦笑する。まぁ確かに男の潤さんからするとコメントしづらいのかも。ちなみに潤さんと外呑みした時は全部割り勘だ。潤さんのが量は飲むけどもちろん飲み放題を注文してるし、私は食べるのに集中するからそんなに量は変わらない。



「潤さんは殴られないんですか?っていうか怖くないんですか」
「俺は相馬みたいに無駄にちょっかい出さねぇし、なるべく会わないようにしてるから結構普通。怖ェけど」
「……相馬さんといえばなんか私の事知ってたっぽいけど、何者…?」


潤さんが普通に話してたからヤバい人ではないんだろうけど、気味は悪い。


「あれはあいつの趣味みたいなもんだから気にすんな」
「……じゃあ小鳥遊さんは?なに?歳取るのはそんなに悪いことですか…!!」



柚子サワーを飲んで小さく叫ぶと潤さんはまぁこれでも食え、と私の大好きなだし巻き卵を出してくれるので大根おろしと一緒に大人しく食べる。



「店でも言ったけど、あいつに悪気はねェんだよ。なんだか女兄弟が多いらしくて年上っつーか12歳以上の女はダメなんだと」
「…ろりこん?」
「いや、そういうんじゃないらしい」
「変な人ですね」
「まぁ否定はしねぇよ」
「変といえば八千代さん。なんで帯刀?あれ、本物なんですか??」
「なんか実家が刃物屋だ〜とか言ってたな」
「……?」



…………なんか、八千代さんの話になった途端潤さんの空気が変わったっていうか、微妙にやわらかくなったような。しかもなんか小さくため息ついて心なしか呑むペースが雑に上がったし…。



「じゃあ山田さんは?お店に置いてきぼりだけど…」
「なんか家出中みたいで店に住んでんだよ」
「フリーダムなお店ですね……」
「あとおまえなら平気だと思うけど、店長には気をつけろよ。元ヤンだから」
「…えぇ〜そういう事は私が働くの決める前に言ってくださいよ……」
「まぁ普通にしてる分には大丈夫だし、おまえがホールに入ればみんな助かる」
「………八千代さんとか?」
「……………………………まぁあいつも助かるだろうな」



なんとなく名前を出してみればはじめて見る潤さんの反応。…おぉ、もしかすると、もしかするのかな。でも結構デリケートな話だし、つっこんで話すのも潤さん嫌がりそうだからそっとしとこう。



「でもほんと、潤さんとバイトなんて変な感じ」
「まったくだな」
「変わった人も多いけど、みんないい人そうだし。潤さんもうバイト長いんですよね?」
「あぁ。高校ん時からだからな」
「へ〜高校生の潤さん見てみたいかも」
「いまとそんなに変わんねぇって」
「ふーん」



潤さんと呑むのは楽しい。いや、別にアルコールが入らなくても楽しいんだと思う。だらだらと生産性のない話をしていると自分が学生なんだな〜と感じる。こんな無駄で貴重な時間は今のうちしかない。楽しいな。



.
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -