なまえに指示された通りのページを読んで内容を軽くまとめ終わるとバイトから帰ってきてから小一時間たっていた。



「おい、腹減ねらねェか?なんか作るけど」
「わーい!嬉しいです!潤さんのごはん好き!」



心底嬉しそうに言うなまえは俺の倍の量を受け持ったってのにもう終わりかけてて、相変わらずの速さに舌を巻く。
こいつは出会った時からそうだった。俺もいつからこんなにつるむようになったか細かいことは覚えてないけど、知り合ったきっかけはたぶんなまえよりは覚えてる。確かに最初は偶然なんとなく近くに座っただけだったけどその日授業でグループに分かれての作業があって近くに座った面子で作ったグループにはもちろんなまえが入っていた。
作業内容は微妙にわかりにくいうえ、やりにくくて、俺を含めた二年がどうしたもんかと閉口した時ずっと俺たちの会話を聞いていたなまえが口を開いた。その時こいつが言った案はシンプルかつ的確だった。テキパキと二年に指示を出してなまえがその倍の量を受け持って行なった作業は最初の俺たちの困惑はなんだったんだと驚くほどスムーズに終わり、他のグループが週末の課題として持ち帰るのを横目に俺たちはさっさと提出した。
あのグループに俺がいたのをなまえが覚えているかはわからないけどあの日を境に俺はこいつをはっきり意識した。意識し始めると他のいくつかの授業も一緒なのに気づいて、近くに座るようになって、いつの間にか親しくなっていた。

チャーハンの具材を炒めながらなまえを見るともう自分の請け負ったとこは終わったのか俺の書いたノートと教材を見比べながらまた新しい紙になにか書いている。なまえは利口だ。知識が特別多いわけじゃないけど知恵に溢れてる。必要なことは相手が上級生だろうが教員だろうがはっきり言って、俺にもとってつけたような敬語しか使わないけど図々しいわけでも無神経なわけでもない。さっきも俺が黙り込んでたのを自分のせいで不機嫌にさせたんだと思って心配そうな顔をしていた。店に行ったら唐突になまえがいたからあの時は本当に驚いたけど嫌なわけじゃない。こいつがいれば店の回転も早くなるだろうし、楽しくなると思う。



「ほら、できたぞ」
「待ってました!」



出来上がったチャーハンをもっていくと丁度区切りがついたとこなのかすぐに食べ始める。



「おいしいです!潤さんバイト、キッチンだったんですね。どうりで料理がうまいわけだ」



本当にうまそうに食うなまえを見ながらビールのタブを上げて少し飲んでから俺も食べ始めると、それを見たなまえも立ち上がって冷蔵庫から酎ハイを出してくる。



「いただきますね〜」
「おまえ、仮にも未成年だろ」
「その言葉、潤さんが去年一滴も呑まなかったって言うなら聞きましょう。それにちょーっとお酒いれたほうが頭働くし」



なまえがさっき書いていた紙を見ると俺の受け持った内容も含めてまとめなおしてある。こいつは読むスピードも書くスピードも異常に速いけど、恐ろしく悪筆だ。最初はこいつの手書きのノートを解読するのに苦労したけど読めるようになれば必要な情報がわかりやすくまとめられたこいつのノートほど助けになるものはない。


「あぁ、これに書いてあること適当につなぎ合わせて書けば終わると思いますよ。感想も下に箇条書きにしといたんで必要だったらどうぞ。私はまぁ適当に書くんで内容もそんなにかぶらないだろうし」



俺がノートを見ているのに気づいたらしいなまえが食べる手を止めずに言う。



「さんきゅ。いつも悪いな」
「潤さんと課題やるの楽しいし、ごはんも作ってもらえるし、こっちこそありがとうですよ」



アルコールで血色のよくなった顔でへらりと笑うこいつは本当に気のいい奴だと思う。

食い終わって食器を洗ってくれたなまえは自分のノートパソコンにこれまたもの凄いスピードでレポートをまとめ上げた後、帰ると言い出した。



「でもおまえ酒入れただろ?泊まってもいいんだぞ」
「あんなの呑んだうちに入らないし、明日はゴミの日だから帰らなきゃ」



前に何度か泊まっていったから今日もそうすればいい、と言うとまるで主婦のような答えが返ってくる。まぁ一人暮らしなんてそんなもんだよな。



「明日の一限来ます?」
「あー、…起きたら」
「ですよねぇ」
「でも三限は行く。その後バイトだけど一緒に行くか?」
「あ、じゃあ明日はバスで学校行こうかな」
「まぁ連絡するわ」
「はーい。おやすみなさーい」


駐車場までついて行って、車が角を曲がって見えなくなるまで見送る。
こんなにずっと一緒にいて心地いい奴は男友達でもいないと思う。出会ってからまだそんなに長くないけどすごく気が楽なのを感じる。最初に流れで泊まることになった時も妙な緊張を感じる間も無く馬鹿な話を続けてお互い気づいたら疲れて寝ていた。
まるでもう何年も一緒にいるかのように気が置けて、楽しい。いい奴と知り合えたな、と思う。





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