おまえ、俺のこと必要か?
鈍器で頭をがつんと殴られたような気がした。
今日一日そのことを考えていて、思考は大体まとまったのに、八熊先輩の口から問われるのは北沢先輩に言われるよりもなぜか数倍ショックだった。
もしここで私が 必要じゃない と答えたら、この人は八熊先輩の事が必要な北沢先輩のところに行っちゃうんだろうか。
でも必要か必要じゃないか、なんてやっぱりまだわからない。
…というか先輩は私が必要としてるから一緒にいてくれたのかな。
美しい彼女ははっきりと 八熊先輩が必要だ と言った。だけど私には言えなかった。
そして付き合っていた時や、いまどれほど八熊先輩が彼女に優しいのか聞かされた。
優しい男を好きになると不幸になる、なんてなにかに書いてあったけど、本当なのかもしれない。
八熊先輩を独占したい、なんて。
過去はもうどうにもできないけど、せめていまだけは自分だけに優しくしてほしい、なんて。
誰にでも優しい八熊先輩を好きになったのに、なんて自分勝手なんだろう。
こんな汚い感情が、私の中にあったなんて、知らなかった。
ごめんなさい。汚くて、いやらしくてごめんなさい。
なにも答えられなくて、頭の中がまたぐちゃぐちゃになって行く。
何を考えているのか自分でもよくわからなくなる。
それでも漠然と理解した。
私は八熊先輩がいなくちゃ、だめだ。
もしいまこうして八熊先輩とお付き合いさせてもらっているのがたくさんの偶然が重なって出来たものだとしても、もうそれは私にとって現実で、必要なんだ。
離れたくないと、他の人のところに行って欲しくないと思う気持ちで全部答えになってるんだ。
いろいろな感情と自己嫌悪が一気に襲ってきて、涙腺を刺激する。
涙が出そうになって、隠さなきゃ、と下を向きたかったけど、そうしたら先輩のパーカーを汚しちゃうことに気づいて顔を下げることもできない。
ぽろりと涙が重力に従って、落ちる。
泣きたくないのに、本人の意思に背いて水分を出す涙腺なんて、いらないと思った。
27, Nov 2011
24, Sep 2020