うー、身体だるい。
鼻水がとめどなく出てきて、鼻がつまって息が辛い。
加湿器にフル活動で働いてもらって、マスクもしてるのに喉が痛い。
今日の数学のテストざぼっちゃったな。
ぼーっとする頭の中で食べ損ねた水曜日限定めろんぱんやら数学のテストやら考えていたら唐突に部屋のドアが開いて、お母さんかな、冷たいゼリーが食べたいな、と焦点の合わない視線を動かすと、そこに立っていたのがお母さんじゃなくて準太で、ついに高熱で幻が見えたのかと思ってぎょっとした。
「じゅ、じゅんた!」
「よ。どうだよ具合」
飄々と言ってからベットの横に敷いてあるカーペットに座って私の顔を覗き込んで来る。
どうだよ、じゃなくて、!
なんで準太がここに!お母さん風邪で弱ってる娘の部屋に男上げるなんて、どういう神経してんの!
「あ、これおまえのお母さんから」
がさり、と持っていた袋から準太がぶどうのゼリーを取り出して渡してくれる。
お母さん大好き!
「……、じゃなくて、!準太、なにしに来たの!」
ゼリーに気を取られて流しそうになったけど、くつくつ楽しそうに笑っている準太に問いただすときょとんとした顔になる。
くそぅ、可愛くなんかないんだから…!
「なにしにって、学校休んだ彼女を心配して様子見に来るのは別に驚くようなことじゃないだろ」
「いや、頼んでないし!」
「メールも来ねぇし、心配したんだぜ?」
「携帯見ると頭痛くなるの!もう、ちょっと帰って」
「ひどい奴だなー。わざわざ練習さぼって来たのに」
「それが迷惑なんだよ!監督に怒られんの誰だと思ってんの!」
「平気だって。和さんがフォローしてくれるから」
準太がなにかと私を理由にして部活をさぼるようになってからもう監督の目が恐くて恐くて。
なんでさぼってる準太じゃなくて私に怒りの矛先を向けるのかがわからない。
私だって迷惑してんのに…!
「でも本当に、準太に風邪でも移ったらもう学校の人達にぼこぼこにされちゃうからね。お願いだから帰ってください」
切実に頼み込む私を見て準太はなにがおかしいのかけらけら笑ってる。
なんて呑気な奴なんだ…!
「また夢のほっぺ、りんごみたい」
能天気な準太に頭痛がひどくなるのを感じながらなるべく聞こえるようにため息をつくけど、そんなの全然気にしないようで遂には私の頬を突っついて遊び始めた。
「っあー!もー!うざい!出てけ!」
「ははっ、かりかりすんなよ。熱上がんぞ」
どんなに私がむきになって言っても準太はのらりくらりとかわすだけで出て行く様子はまったくない。
しかたない、無視して寝よう。それが一番だ。そうに違いない。
「あれ、もう寝んの?」
「…………………」
布団をかぶり直して目を瞑った私を準太が覗きこんで来る気配がするけど、無視だ無視。
聞こえないふりをして寝た振りを続けていると、しばらくしてから準太の静かなつぶやきが私の湿度調整完璧な部屋に響いた。
「……今日、おまえがいなくてつまんなかったんだから、はやく、治して学校来いよ」
最後に私の汗で汚れているであろう額に優しく薄い唇を押し付けてから、ぱたんとドアの閉まる音。
まったく、本当にあの男は。