双子だっていうのに、どうしてこうも違うんだろう。
双子って、顔だけじゃなく性格も似るものじゃなかったの。
………困ったなぁ。
「…大丈夫、?寒いならこれ着てなよ」
「あ、いや、平気、です」
「…………………………」
浅羽(兄)と二人っきりの放課後。
明日の委員会で使う書類をまとめていると偶然校舎に残ってた浅羽が手伝う、と言ってきた。
もちろん断ったけど、もう時間も遅いし二人でやったほうが早いでしょ、と押し切られてしまっていまに至る。
浅羽弟の方は学年で有名なほど他人に興味が無くて、こんな風に誰かの手伝いを自らするなんてこと、絶対にない。
だけど兄の方はどういう訳だか優しくて、よく気がついてこうやって手伝ってくれている。
正直、ちょっと困る。
弟の方がなんていうか雑だから同じ二人っきり状況になってもここまで困らなかったし気も使わないと思う。だけど兄の方は優しいから逆にこっちが申し訳なくなる。
浅羽兄弟は顔がいいからこんなに近くで、しかも二人きりって状態に耐えられない。
イケメンに耐性なんてない私はどうしていいのかわからなくなる。しかも浅羽兄は優しいからいまもこうやって暖房が壊れた部屋で寒くなって、スカートから出てる足を擦るとすぐに気づいて自分の着ていたブレザーを差し出してきてくれた。
嬉しくないわけじゃないけど、本当に困る。
だってブレザーを脱いだら彼はワイシャツ一枚になってしまう。関係ない雑用を手伝ってもらっている上、上着まで奪うなんてこと私にはできない。
咄嗟に断っても、浅羽は脱いだブレザーを着ようとはしなくて、しばらくした後机に置いた。
え、なんだろうこれ。どうすればいいんだ。浅羽兄弟は基本いつも無表情だから感情を読み取るのは難しい。
私はただ早く作業を終わらせてこの状況から抜け出したいだけなのに。
「…女の子の方が冷えやすいって、要が言ってた」
「かなめ…って塚原、?……いやでも、そんなこと、ないよ。本当に大丈夫だから。………あ、そうだ、なにかあったかい飲み物買ってくるね。手伝ってもらったお礼に奢るよ。なにがいい?」
「……俺も一緒に行く」
「えっ、私一人で行くって、」
「だって自販機外じゃん。…もう暗いし」
ガタ、と椅子から立ち上がった浅羽はドアに向けてさっさと歩いていく。
え、え、なにこれ、少しの間だけでも二人っきりの状況から抜け出したかったのに、これじゃあ意味がない。
浅羽は机に置いたブレザーを手にとったけど、着るつもりはないみたいで腕にかけている。
ジュースを奢る、って言っちゃった手前やっぱり行かない、なんて言えるわけも無くて、私も立ち上がって教室の外に出た。
廊下の電気はもう消えていて暗くて少し、怖い。
昼間の雰囲気と違う長い廊下が不気味で歩くのが遅くなっちゃったけど、浅羽はそんな私のスピードに合わせて歩いてくれてるみたい、だ。ほら、またこんなところでいちいち優しい。
「…浅羽、どれにする?」
がちゃがちゃ、ゴトン
「!、え、なにして、」
「ん?」
やっと自販機について明るいパネルを眺めながらなにがいいか聞くと、隣の自販機で既に浅羽は自分の飲み物を買っていた。
な、なんて早業。…じゃなくて、そんな、奢るって言ったのに。どうして一緒に来たのかわからない。
「私、奢るって、」
「あぁ、いいよそんなことしなくて」
「で、でも、手伝ってもらってるし、!」
「別に、俺が勝手にやってるだけだから」
「……そんな、」
そんな。
どうしてこの男はそうなんだろう。優しくて、優しくて。苦手だ。
馬鹿な私は勘違いしちゃうからやめて欲しい。好きになっちゃうからやめて欲しい。
なにも言えなくなって、しかたなく自分のミルクティーを買って飲むと、隣でコーヒーを飲んだ浅羽が小さく口を開いた。
「…迷惑、だった?」
「、え?」
「……だから、無理やり手伝ったりして、迷惑だった?」
「そ、そんなことは、ない、!」
こんなにいい人にそんな誤解をさせてしまうなんて。私が迷惑な人なのに。手伝わせて、お礼のひとつもできなくて、最低だ、私。
「…でも、夢のサンなんか困ってたみたい、だから」
「そっ、それはなんていうか、緊張、して…」
「緊張?」
「…………………………」
あなたの顔がかっこいいから緊張したんだよ、なんて言えるわけないのに、浅羽は答えを求めるように私をじっと見ている。
…しょうがない。
「あ、浅羽はかっこいいんだからこういうこと簡単にしちゃだめだよー。まったく、罪作りなんだから、」
「…………………………」
なんとなく冗談に聞こえるように軽く言う。私的には浅羽の疑問にも答えたし、いい、はず。
さっさと教室戻って作業終わらせちゃおう、と声をかけようとする前に、浅羽が私に言葉を落とした。
「…もしかして俺、誰が相手でもこういう風に手伝うと思ってる?」
「だって、実際そうじゃん。浅羽(兄)は優しいってみんな言ってるよ」
「………そっか、」
「うん。…って、ちょっと、な、なに、」
浅羽の声のトーンが少し下がって、どうしたのかと思ったら急に今まで腕に持っていた浅羽のブレザーを肩にかけられた。
え、ちょっと、意味がわからない。いやたしかにここ外だし寒いんだけど、っていうか浅羽ずっとワイシャツなのに寒くないのかな。それよりブレザーから浅羽の匂いがしてドキドキする。どうしようこれ、どうすればいいの。
「、俺は、誰にでもこういうことはしないよ」
「…どういう、」
「今日、夢のサンが残って委員会の仕事してるの知ってた」
「え、」
「知ってて、手伝いに行ったんだ。…夢のサン、だから」
「!!」
「迷惑なのはちょっと分かってたけど。ごめんね」
「い、いや、謝るのはこっちの方だし、っていうか手伝ってもらってすごく助かって、その、あの、…あれ、」
思いもよらなかった浅羽の台詞に頭が混乱してよくわけがわからなくなる。え、だって、こんないい方、なんだか浅羽が私のこと、
「好き、…です」
「!!!」
驚きすぎて、思わず着たままの浅羽のブレザーの裾をきゅっと握る。サイズが大きくて、肩はずれてるし、丈もスカートと同じくらいになってる。あぁ、おおきいんだな。
暗くて私の赤い顔が浅羽から見えなくてよかった。
このドキドキは気のせいなんかじゃなかったんだ。好きになっても、よかったんだ。
後はほんの少しの勇気を持って、素直になるだけ、だ。