祐希悠太要春
「…彼氏できた」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「………………え。」
いつもの退屈な放課後。
なにか変わったことをするわけでもなく、特別楽しいことがあるわけでもなく、なんにも変わらない、普通の放課後。
いつものメンバーで家に帰る前にだらだら寄ったお店で軽くごはんを食べていたとき。思いついた小さな、嘘。
ちょっとだけこの退屈さを紛らわせられればいいな、と思って言った嘘。
笑い飛ばされて終わるかと思ったけど、予想していたよりもみんなの反応は大きかったし信じてもらえた。
みんなの視線が私に集まって、たっぷり数十秒溜めてから要が声をもらして、それからは最強双子タッグからの質問攻めだった。
「いつ」
「どこの」
「誰」
「うちの学校の奴?」
「同じ学年の奴?」
「クラスは」
「名前は」
「部活は」
「なんで」
「「全部話して」」
「ちょ、ちょっと、まってまって」
こっちに身を乗り出して交互に質問を飛ばしてくる悠太と祐希の顔を押し返してコーラを飲む。
…どうしよっかな。なんか思ってたよりも祐希も悠太も本気っていうか真剣だ。なんかこわい。
要は最初に一言もらしたまま固まってるし春ちゃんはひとりパニックになってるし。おもしろいなぁもう。
「えーっと、バスケ部のせ、先輩の、人、かな」
「バスケ部?やめときなってうちのバスケ部弱いから」
「そーそー。こないだ部活見学の時ちょっと相手したけどみんな下手くそだったし」
「ちょ、ちょっと二人ともダメですよまた夢ちゃんの彼氏さんをそんなふうに…!」
「それに、背も高くて、かっこいい、し」
「俺たちだって来年になればもっと背、伸びてるよ」
「しかもなに、かっこいいとか外見で選んだわけ。また夢がそういう女だと思わなかったー」
「そんなんじゃないよ!なに!祝福してくれたっていいじゃん!」
「祝福?」
「そんなのできるわけないじゃん」
「と、友達だと思ってたのは私だけだったってか!いいもんね!私だってもし悠太と祐希に彼女できても応援してあげないもんね!」
「そんなんいらないよ」
「!!…ショック…ちょっとショック…そうですか、私の応援なんていらないか…」
「そんなことないですよ、また夢ちゃん!僕たちみんな友達ですよ!」
「…ともだちっていうか、」
「…ねぇ」
「なんだなんだ!こんな悲しい事実が発覚するなら彼氏できたなんて嘘言わなきゃよかった!私たちの友情も今日までだな!うわーん!」
鞄をつかんでお店から出ようとすると両腕をそれぞれ祐希と悠太につかまれて動けない
「なによ放してよ私はこの傷心を抱えて一人家に帰るんだ!」
「「…嘘なの?」」
「え?う、うん。まぁ、うん」
「「………ばか」」
「ってハァ?嘘だと?!!」
「あ、はいごめんなさい冗談でした」
「おまえは昔っから……また夢の冗談は質悪いんだよ!!」
「まぁまぁ要くん。また夢ちゃんも悪気があったわけじゃないですし」
「悪気あってたまるか!」
すぱーん!と頭を叩かれて反射で抑える。
人の頭叩くなんて…!要ひどい!
「暴力はんたーい!悔しかったら要だって嘘でも彼女できた!くらい言ってみろ!」
「なっ、おまえは、!!」
「無理だよまた夢。要は年上じゃないと好きになれないから学生のうちに彼女作るのは難しいって」
「あぁ……って、そんななれなれしく肩とか組んで来てるけどもう祐希も悠太も友達じゃないから!」
「べつに友達じゃなくてもいいよ……彼氏になれんなら(ぼそ)」
「いつも優しい悠太まで…!もう私の信じられるのは春ちゃんだけだよ…!」
「えぇ?!あ、はい!」
「あー春だけずるーい。俺の方が好きなのにー」
「わけわかんないこと言ってる双子はもういいよ。食べよー春ちゃん」
「た、食べましょう、か!」
「…むくわれねーな、おまえらも」
「………………………………」
「………………………………」
最初はぎゃーぎゃー煩かった双子はちょっとぐったりして黙り込んじゃった。なんだろうこの二人。昔からほんと、わけわかんない。
二人とも顔はいいんだからはやく彼女作ればいいのにさ。あ、でもそうしたら私と遊んでくれなくなるのかな。だったらまだ、いいや。
*なんだかよくわからない事になった。ただ、こう、彼氏できたって聞いた双子が静かに焦る様を書きたかった。