*君の底 の続き






今日は、また夢が来ない。

いつもなら休み時間の度に俺のことろにきてぴったり抱きついてくるのに。おかしい。

朝はいたのを見たから学校には来てるはずだけど授業には全然出てない。鞄も無い。
具合が悪くて保健室にいるのか、それとも…。


………………しょーがないな。

こんなんだから要に甘やかしてる、とか言われるのかも。


小さく息をついて携帯だけポケットに入れて教室を出る。
次は数学だから本当は出たいけど。後で春にでもノートみせてもらおう。



すこし急ぎ足で屋上への階段を上がって、ドアを開ける。

春の日差しがまぶしくて、目を細める。

一見見渡したところには誰もいないけど、奥まで歩いていくと、




「……いた」

「……っく、…」



うずくまっているまた夢に聞こえないように深くため息をついて、隣にしゃがむ。

朝からずっとここにいたのか。



「………………………」

「………うっ、……ッ」

「…、また夢」

「…………………ひ、ひとりにっ、して」



あくまでもまた夢からなにか言うつもりは無いみたいだからこっちから声をかけると嗚咽まじりに小さな声を出す。



「無理」

「………ッ」



即座に断ると、また夢はもう返事すらする余裕がないのか黙って方向転換して俺に背を向ける。
朝から、ずっとここにいたのか。ずっと、一人で泣いてたのか。


こういうところ見ちゃうといくら要に注意されても甘くなっちゃうんだよな。


だって、また夢はいつもいつもことあるごとに俺に抱きついてきて、ぎゅうぎゅうやわらかい体で俺を包むのに、本当に辛くて悲しいときは絶対に来ない。
抱きつくとストレス発散できる、なんて口では言っても本当に助けが必要な時はなにも言ってくれない。

マイナスの感情を見せるのが下手くそで、こうやっていつも誰にも見つからないところで一人傷ついて泣くんだ。

昔から、いつもそう。まだ幼かった時は俺も分からなくてまた夢が一人で泣いていたのを何度見過ごしてきたのか今となってはもうわからないけど、いまはちゃんと気づける。



「また夢さ、なんでいつもそうなの?こういう時こそ人にすがらなきゃ」

「……う、るさい、…」

「いつもはすぐ俺に抱きついてくるんだからさ、俺にすがって泣きなよ」

「だめ、だもん。…そんな、ことしたら、っく、む、り」



しゃっくりをあげながら。でも俺の言葉に返事をしてくれる。


また夢はみんなから能天気で悩みのない奴だと思われてるけど、それは違う。見せないだけだ。悲しみのない人なんて、いない。




「なにが無理なの」

「だ、だって、」



だって、だってもし悲しい時に悠太にいてもらったら迷惑になる。悲しいときは、人が恋しくなるから。すがって泣けたらすごく楽だから。だから一回やっちゃったら、もう私は一人で泣けなくなる。そんなの、嫌だ。怖い。一人じゃいられなくなる。悠太がいないと、いられなくなる。だから、いまは優しくしないで。悠太は優しいから。悠太の優しさに溺れちゃうから。また復活したら、ぎゅってしに行くから。だから、それまで一人にして。


苦しそうにしゃっくりと戦いながらそう言ったまた夢は、また声を殺して泣き始める。ここに来る前にスポーツドリンクでも買ってくればよかった。脱水症状になっちゃうのに。




「…俺はいつでも傍にいたいと思ってマス…よ」

「……、」

「だからこうやって一人で泣かれると、俺は、さみしい、です」

「で、でもッ、」

「…もっと素直に甘えて、よ。俺は、また夢の楽しい時だけじゃなくて、つらい時も一緒にいたい」

「…ゆ、悠太は、いつかその優しさで、身をほろぼす、よ」

「…また夢に滅ぼされるなら、べつにいい」



のろのろとまた夢が俺の方に体を向けたと同時に、顔を覆っている腕をつかんで引っ張ると、簡単に俺に落ちてくる体。

しっかり抱きとめて、背中と頭をゆっくりなでる。うん。落ち着く。



「っ、もう、しらないん、だからね…」

「うん。…よしよし。ほら、すきなだけ泣きな」

「………ッ、ぅ、ゆうたっ、かなしいよっ」

「…………うん。俺がいるから」




ぽとり、とまた夢はおよそ長い付き合いの中ではじめての弱音を俺に伝えたあと、堰を切ったように声をあげて泣き出した。
俺のワイシャツをぎゅっと握って、おでこを胸に当てて体中で泣く。

だから俺もまた夢が少しでも安心できるように強く、ツヨク小さな体を抱きしめる。


また夢が弱音をはくのは俺にだけでいい。泣くのは俺の前だけでいい。でも、もうひとりでは泣かせない。いままで一人で泣いていてくれてありがとう。おかげで俺が一番になれたよ。


また夢の瞳から休みなく流れる涙がワイシャツを濡らしてじんわりあたたかい。それが妙に心地よくて、大声で泣くまた夢の泣き声を聴きながら静かに目を閉じる。あぁ、夏が来そうだ。






*どこかに浅羽さん家の悠太くんは落ちていませんか。あんなに気の利いて優しい男子高校生私はみとめん…!ほしい…!

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