「なぁ、なんで俺のことそんなに避けんの?」

「…………」

「なぁって」

「っあー!もーうるさい!ついてくんな部活行け」

「今日監督とかずさんの都合で練習ない」

さっきから私の後をついてくる高瀬準太がいい加減うっとうしくなって睨めば、飄々と返事が返ってくる。
周りはこの学園の王子様に興味津々で、何事かと見てくる。
その視線も、うっとうしい。

だいたいなんでいつもいつも私に構うんだろう。私以外の女の子ならすぐに頬を染めて可愛らしく笑うんだろうけど、それはあくまで私以外の話だ。


私はこの男、高瀬準太が、嫌いだ。

苦手なんて可愛らしいもんじゃない。
廊下で見かければ全力で逆の方向に向かうし目が合えば瞬速でそらす。
本当に、大嫌い。

野球部のエースだかなんだか知らないけどまわりにちやほやされてるのが嫌い。
それを鼻にかけるわけじゃなくいつも自然な笑いをこぼすのが嫌い。
タレ目がちな目とか、少し猫背なとことか、大きな手とか、やわらかそうな髪の毛一本にまでさえ腹が立つ。

なんで、とか、いつから、なんてわからない。

だけどそれ以上にわからないのはこの男自身だ。

「なんで私にかまうの?他の子にしなよ。私、いつも言ってるけどアンタのこと大っ嫌いだから」


いままでもさんざん言って来た台詞を吐く。
いつもならここで高瀬準太が少し困った顔で笑って、そんな怒るなよーとか言ってどっか行くのに、この日は違った。


「…おまえさ、いつまでそうしてるつもりなわけ?」

「なにが?」

「ほんとは好きなんだろ」

「??」


わけのわからない高瀬の言葉に本気で首をかしげると奴は大きなため息をついて、爆弾を落とした。


「夢のまた夢、おまえ、俺のこと好きだろ」


高瀬準太が言った瞬間、私は雷に打たれたかのように動けなくなってしまう。
私が高瀬準太のこと、スキ?
いつもの言葉になら皮肉のひとつでも返して嘲笑えるのに、それができない。


「そんな、こと、ない」

「あるだろ。顔見ればわかるよ」


あぁ、そうだった。この男はこの学園で一番モテるんだった。自分の事が好きな女なんて星の数ほど見て来たのか。
だから、私の気持ちに私より早く気づいた。


「あんたの事なんか、嫌いだ」

「………」

「野球部のエースっていうのも、顔も手もなにもかも、嫌い」


必死に言葉を繋ぐけど高瀬準太は私のことを見たまま、動かない


「ツンデレっていうより、天邪鬼だな」


本日二度目の高瀬準太の核心を突いた台詞に、今度は溺れたかのように上手く呼吸ができなくなる。

気づけば私達以外の生徒はさっさと帰ったのか、もう誰もいない。

じっと地面を見るとそこに水滴を見つけて雨でも降ったのか、と空を見上げるけど、綺麗な青空が広がっていて、この水滴が私の目から落ちたことをやっと理解した。

高瀬準太は、正しい。

私はこの男のことが憎らしいほど、好きなんだ。

タレ目がちな目とか、少し猫背なとことか、大きな手とか、やわらかそうな髪の毛一本までもが好き。


嫌ったのは、嫌われるのが怖かったから。
先に嫌えば、怖くないから。


そんなめんどくさい私の心情をとっくに見透かしていた高瀬は余裕の笑みを浮かべた。

「泣くほど俺のこと好きなんだろ?大丈夫。俺、おまえのこと笑っちゃうほど好きだから」

なにが大丈夫なのかまったくわからないけど、まぶしく高瀬準太が笑うから、もうなんでもいいや。

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