「おーい。いちゃつくなら他でやってくれー」
「?」
「いや、そんなキョトンとした顔されても。悠太も甘やかすなよ」
「別に甘やかしてるつもりは…」
「そうですよ要くん。二人が幸せなんだからいいじゃないですか」
「春の言うとおりだよ。別に迷惑かけてるわけじゃないんだからいいじゃん」
「そういうおまえは平気なのか?兄貴とられんぞ」
「要、俺のこと馬鹿にしてるでしょ」
ちょっとムッとした祐希に春くんが苦笑をもらしてなだめる。
いつものお昼休み、ごはんも食べ終わったから隣に座っていた悠太の首に手をまわしてはり付いたのが要の言葉の原因だ、と思う。
私が悠太にべったりなのはいまに始まったことじゃないのに。へんな要。
季節も春のはじまりで暑くないんだからいいじゃんか。
しかし悠太に抱きついてると落ち着く。
薄くて硬い胸板に頬を寄せれば、悠太は軽く頭を撫でてくれる。嬉しい。
悠太は少し体温が低めだからひんやりしてて気持ちいいんだよね。
「要、知らないの?人は他人とぎゅってすると、ストレスの四割が軽減されるんだよ。はー、落ち着く」
「知らねーよンなこと。大体なんで悠太なんだ?祐希だっておんなじ顔のおんなじ身体だろ」
「うわ、カラダだって。えろーい。要は俺たちの身体が目的だったんだね。最低」
「誰もそんなこと言ってねぇだろうが!」
「なんかね、祐希と悠太、微妙に違うよ。祐希の方が肩甲骨が微妙に尖ってるし、悠太の鎖骨はちょっとふとめ」
「また夢ちゃん祐希くんと悠太くんの身体詳しいんですね。すごいです」
「えへへ」
「おい褒めるとこじゃないだろ。変態か」
要が悠太と祐希が一緒、だなんて見当はずれな事いうから具体的に違いを教えてあげたのに変態あつかいなんてひどい。ちょっとストレスだったから悠太の背中に両腕を回してきつく抱きつく。悠太もぎゅってしてくれる。やっぱり優しい。
「よしよし。俺的には、俺のはいいとしてなんで祐希の体までそんなに詳しいのか気にはなるけど変態だなんて思わないよ」
「ほら、また夢すねちゃったじゃん。どうすんの要」
「あーハイハイ。俺が悪かったですよすいませんね」
「わかればいいんだよ」
なんだか分からないけど悠太にはりついてるとすごく落ち着くし安心するんだよね。他の人じゃ、なんか違う。
嬉しいときは喜びを分け合うのに抱きつくし、笑いころげる時も面白くて抱きつく。
悠太もべつに私がいつどこで抱きついてもなにも言わないからつい甘えてしまう。
たしかにちょっと傍からみてればうっとうしいかもしれないけど、もういい加減、要は長い付き合いなんだからなれてほしいなぁ。
優しく私の背中を撫でてくれる悠太の腕の中でだけ、私は自由に呼吸ができる。
悠太の肩口に顔を埋めて深く深く息をつけば、くすぐったいって抑揚のない声で言うけど、本当は嫌がっていないのを知っている。うぬぼれでもなんでもいい。ただ、この胸の中にいられるのが、幸せなの。
*なんか付き合ってるのか付き合ってないのか微妙なラインなふたりだといい。