「お、じゃあ残った夢のと浅羽でペアだな」
「…………………………」
「…………………………」
体育祭が近づいてきた日の体育の授業中。適当に競技を選んだら二人三脚になって要は他の競技だからペアは誰でもいいやと思って選ばないでいたら何時の間にか男子はもう残ってなくて、教師に無理矢理ペアを組まされた。女子と。
「まぁ、よろしくね」
「ああ、…はい」
「とりあえず足入れようか」
男女ペアって無理があると思う。
においで吐いたらどうしよう。
でもいまさらどうする事も出来なくて、配られたゴムに足を入れようとしている夢のサンと同じようにしゃがむ。
……?あれ。
近距離にいる夢のサンからは化粧品独特のにおいもニセモノみたいな甘いにおいもしない。
少しだけするのは洗剤のにおいとシャンプーのにおい、だけ。
………大丈夫かも。
とりあえず吐くようなことにはならなそうだから息をついて、もう夢のサンはゴムに足を入れたから俺も入れてみる。……入らない。
「浅羽祐希の足おおきいなぁ。先に入れたほうがいいかもね」
「…なんでフルネーム」
「え、だって浅羽じゃあ浅羽悠太とかぶるじゃん」
「なら祐希でいいよ」
フルネームじゃいちいち長いでしょ、と言うと隣で夢のサンは驚いたように少し止まったあと、嬉しそうに笑う。
「…うん、……うん。わかった。なんかあれだね、祐希はいつも基本スルーだからアレだけど普通だね。あ、私のこともまた夢でいいよ」
「……わかった」
アレってどれかちょっと気になるけど、まぁいいや。なんとなく予想はつくし。
俺が先に足をゴムの中に入れて、その後にまた夢が入れるとすんなりはいった。小さい足。
「あっ、足もう繋いじゃったけど、左右どっちがいいとかあった?」
「俺はべつにどっちでも」
「ならよかった。じゃあ歩いてみよっか」
立ち上がると同時に自然に腰に腕を回されてギョッとする。
また夢は不思議そうに俺を見上げる。…ちかい。
「あれ、もしかしてくすぐったかった?でも肩に腕回すの疲れるから我慢しておくれ」
「いや、くすぐったく、ない」
「そ?じゃあ外の足、中の足、って順番で歩こうね。歩幅は狭めで頼むよ」
「わかった」
また夢の腕は俺の身体に回ってるけど、俺はどうしたらいいのかわからなくて結局そのまま垂らしておく。
…しかし、ちいさいな。足も小さいけどこうやって真横に立ってみると背の違いがよくわかる。
「よし、はじめるよ、せーの、外、中、外、中、外……うーん、なんかタイミングずれちゃうねぇ」
「そうですね」
「あ、ちゃんと私の肩に手 回してよ。そっちのがタイミング合わせやすいと思う」
「………はい」
なるべく身体がふれないようにやったけど、やっぱり無理だったみたいで仕方なくまた夢の肩に手を置く。…うわ、小さ。細っこいのにやらかい。え、強く掴んだら骨砕けそうなんですけど。なにこれこわい。
「じゃ、もう一回やってみよっか。今度は軽く走ってみよう」
「…うん」
「せーの、外、中、外、中、外、中、そとっ、な……っと、!」
「!!」
また夢の肩の骨を折らないように気をつけて走ってたら何時の間にかペースが上がってたみたいで、俺の足に引っぱられたまた夢が体勢を崩した。転ばせる前に慌てて身体を支えると簡単に止まってまた違和感。軽すぎ。
「おどろいたー…ありがと」
「いや、こっちこそ、ごめん。速かった?」
「あー、ちょびっとね。そっか祐希は足速いんだね。少しゆっくりめに走ってくれると助かるかな」
「気をつけます」
「どーも」
そのまましばらく練習を続けて、なんとなくコツもわかってきたから休憩をとると隣でまた夢が芝生に寝っころがる。
「体育祭本番までには体重落として軽くなってもっと速く走れるようにしとくからね」
「え、べつにいいんじゃない。それ以上痩せてどーすんの」
「いやいや。だって絶対祐希の方がウエストとか細いね。なんだその腕は。私より細いだろう」
「そんなことないって。ほら」
男の俺の方が細いわけないだろ。
少しイラっとして腕を突き出してまた夢のと並べる。
「…あれ、ほんとだ。あれか、骨が太いのか。でもなんもつかめないじゃん。皮と筋肉だけか」
また夢は自分の腕と俺の腕を見比べた後 俺の皮膚をひっぱった。
「私はほら、やらかいからつまめちゃうんだよ。悲しいんだよ」
「そのまんまでいいって」
「祐希は結構いい奴だね」
「…………………………」
自分の腕をやわらかくつまんで、でもやっぱ少し体重落とすわ、と意気込む。充分細いのに。…変なの。これ以上細くなったら真面目にすぐ折れちゃいそう。
体育祭終わるまで怪我させませんように。隣で気持ちよさそうに眠りはじめた小さなまた夢を見て本気で気をつけようと思った。
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