幸村くんは、私に甘い。
一般的に彼氏というのは彼女に対して甘いものなのかもしれないけど、それにしてもたぶん幸村君のは“一般的”を大きく外れて、猫可愛がりに近いと思う。


一度、席が隣の蓮二にその旨を伝えてみると「あいつは猫可愛がりをしてるんじゃなくて溺愛してるんだ」と正された。

できあい。
そんなこと実の両親からだってされた事のない私にはあんまりピンとこなかったけど、確かに言われてみれば蓮二の意見は正しいのかもしれない。


「どう?おいしい?」

「うん、とっても」

「それはよかった。はい、これ飲みな」

「ありがとう」


お礼を言って受け取ると、それはあたりまえのように私の好きな甘い紅茶で、つくづく甘やかされてるなぁ、と思う。


幸村くんの朝練が無い日は家の前で待っていてくれて、荷物は絶対持ってくれるし、スカートの裾がほつれてたりボタンが取れかけてたらすぐ直してくれるし、授業でわからないことがあると先生より丁寧にわかりやすく教えてくれる。授業中寝ちゃって書き写しそこねたノートは私がなにも言わなくても「コピー取っといたよ」って言ってくれる。


幸村くんが作ってくれたお弁当は私の好物ばかりで、しかもなんだか身体によさそう。
彼は昨日もどの部活より遅くまで練習していたし、今日は朝練もあったはずなのにいつお弁当なんて作る時間があったんだろう。賢い人はやっぱり時間の使い方が上手だ。



なんだか、このままじゃいけないって事くらい馬鹿な私にもわかる。お弁当作ったり、ボタンつけたりって、本当は彼女である私の仕事なんじゃないのかな。


なにより、


「こんなに甘やかされたら、私、だめになっちゃうよ」


それこそ、幸村くん無しじゃなにもできなくなるほど。ひとりじゃ、生活すらままならなくなりそう。


フルーツを咀嚼する幸村くんにそう伝えると、彼はごくんと飲み込んでから、切なくて愛らしい笑みを浮かべて甘くつぶやいた。



「だめになってよ。俺はもう、また夢なしじゃ生きられないくらい、だめになってるんだから」


そうか、私は甘えていいのか。
私はだめになっていいのか。






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