「ねぇボス、…お屋敷から出てもいい?」

「あぁ?」



スクアーロも最近は世界情勢も落ち着いてるって言ってたし、普段はボスと一緒じゃないとお屋敷から出させてもらえないけど、ちょっとくらいならいいんじゃないか、と思って聞きに行ったらものすごく不機嫌な顔で聞き返された。



「今日は忙しいから無理だ」

「ちがくて、その、私、ひとりで…」

「却下」

「ちょ、ボス!!」


短く会話を終了させてまた書類に向き合おうとするボスの腕にあわてて抱きついてお願いする


「ねーえー、一ヶ月、いや、二週間でもいいから、ね?」

「駄目だ」

「ボスのけち!」



そりゃあさ、お屋敷の外が危ないのはわかってるけどさ、ちょっとくらいいいじゃん。
もうすぐ世間はクリスマスだけどヴァリアーはもちろんそんな行事関係なくて、毎年私はケーキを焼いたりクッキー作ったりしてるけど今年はなんかちゃんとした恋人っぽい物をあげたい。



「…なんで外に行きてぇんだ」

「そ、それは、その、」

「………………」

「ば、バイト、してみようかなー、なんて、」


いままで書類を見ていたボスがいきなりこっちを向いて紅い燃えるような目で見つめられて、隠し通すことなんてできなかった。

欲しい物はお手伝いさんに言えばなんでも用意してくれるし、服とかもいつのまにかお部屋にたくさん新しくて可愛いのが用意されてて不自由したこともない。
たぶん頼んだらボスはお金なんていくらでくれると思うけど、ボスへのクリスマスプレゼントくらい自分で準備したい。だから少しの間でもアルバイトしてお金ためて、なにか買ってあげたかった。



「金が欲しいならそう言え。幾ら欲しいんだ」

「ボスのあほ!わかってない!」


ほらね!やっぱり思った通り!なんか引き出し開けてお金出そうとしてるし!
そうじゃないのに。私が自分で作ったお金で、なにかボスにあげたかったのに。

むしゃくしゃしてボスの腕をぐいぐい引っ張っていると、不意にボスが優しい目になって呟いた。


「………………ケーキが食いてぇ」

「え?」

「……今年のクリスマスにおまえは俺のためにケーキを作れ」

「ボス、なに言って、」

「クリスマスプレゼントにケーキが食いてぇって言ってんだよ」

「そんなんじゃ、いつもと同じじゃん…」

「俺が食いてぇって言ってんだ。文句あんのか」


文句なんて、ない。まさか、ボスからなにかしてくれ、って言われる日がくるなんて。
毎年、甘いの嫌いなのに無理矢理食べてくれていると思ってた。
うれしい…



「う、ううん、ない、ないよボス」

「ふん」

「ねぇ、どんなのがいい?生クリーム?チョコ?それともフルーツのがいい?」

「なんでもいい」

「えへへ!」



そっけなくまた書類に目を向けてるけど、さっき言ったことちゃんと覚えてるんだから!
今年は頑張って、ルッスにも手伝ってもらって、すっごいの作ろう!

待っててね、ボス!






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