大好きなキャロットケーキをひとくち口に入れたとたん、やさしい甘さが広がって一週間の疲れがとけていくのを感じた。
「うまい?」
「うん、すっごく!」
「そりゃよかったな」
「準太も食べる?」
「いーや、俺はいい」
前に座ってコーヒーを飲む準太に、おいしいのに、と零すと俺はおまえが食べてんの見てるのが楽しいからいいの、なんて。
そんなこと言われたらもうなにもいえない。
金曜日は準太はミーティングだけで部活が終わるから、毎週放課後に一緒にごはんを食べに行くようになったのはいつからだっけ。
もう思い出せないくらいの日常の習慣だけど、こうして毎週ちゃんとその習慣を守ってくれるのが嬉しい。
本当は金曜日くらい好きなことして遊んだり、おひるねしたいはずなのに。
準太はやさいしいから、ついあまえちゃう。
「……ん?どうかした」
「ううん。なんでもない」
少し考えながら手を止めていると、準太が不思議そうに覗きこんで来る。
ちょっとしたことにも、すぐ気づいてくれる準太は、本当に本当にできた人だ。
「…準太は、家でおひるねしたり、野球部のみんなと遊びに行かなくて、いいの?」
今日だって、野球部のみんなが一緒にごはんを食べに行ってるの、知ってる。
りおちゃんがまた夢さんもどうですか、なんて誘ってきてくれた。
だけど私がどうしようか迷って、答えられないでいるとすぐに準太が「悪い、今日はふたりで行くから」って言ってくれて。
すごく嬉しかった。
「…、また夢は野球部の奴らと行きたかった?」
「ち、ちがくて、…、準太が行きたかったんじゃないかな、って」
金曜日の放課後を、毎週私と過ごして、つぶしていいの?
私はすごくすごく嬉しいけど、私は準太が無理してるなら、嫌だ。
すごくまわりくどく、そう伝えると、準太はふにゃりと笑って言った。
「俺は、また夢といたいんだよ。せっかくの金曜日なんだから、一緒にいたい」
野球部の奴らは嫌でも毎日一緒だしな、と付け足した準太はどのおとぎ話に出てくる王子さまよりかっこよくて、優しくて。
キャロットケーキがまた口の中で溶けた。
Happy Friday!