桐青戦を乗り切って、三橋が休んでいないスポーツ大会。
ぶっちゃけ三橋の事も気になるし、野球以外のスポーツつまんねぇし、メール返って来ねぇし…、だるいだけだと思っていたけど、男子バスケが始まって数分後、俺は今日さぼらなくてよかったと心から思った。
「雑魚ども!かかってきな!」
泉や田島と浜田が出るというバスケの試合を見に来てみたら、浜田は一歳年上という体格の差を有利に使って圧勝。対戦相手の1人が負傷して、続行不可能になったところにひらりと女が出て来た。同じクラスのまた夢だ。
審判が声をかけてものらりくらりと笑うだけでするりと説き伏せる。
大体バスケを種目に選ぶ野郎共なんてガタイの良い奴ばっかりで、そんな奴らに囲まれたまた夢は余計小さく見える。
なのにそんな事に全く臆していないまた夢は勝ち気に笑って浜田のチームを挑発する。
「あんたらにバスケのしかた教えてやるよ」
「っておい、おまえは帰宅部だろ。バスケのなにを知ってるんだよ」
でかい浜田を見上げて生意気に言い放つまた夢に少し呆れた感じに窘める男たちの間を、瞬きしてる間に細い風が駆け抜ける。
息を飲んだ時にはもうボールがネットに沈んだ後で、誰も上手に反応できない。ただ一人、また夢を除いて。
「こっからが本番だ。巻き返してやるんだから、へばんなよ!」
なんとも男前に、チームの奴らを奮い立たせる。するとさっきまで敗北を確信して意気消沈していた奴らの目にまた闘志が宿る。
それからはまた夢の独壇場だった。
身軽にコートを走り回って、ボールを器用に操って点をもぎ取る。
小さい身体の癖に男との接触プレーを繰り返して、ファールももらう。
器用、としかいいようの無い奴。
あんなに楽しそうになんかしてるとこはじめて見た。
いつもは教室でなに考えてんのかぼーっと外を見て、たまに思い出したように数学を解きだす、変な奴だとしか思ってなかった。
でもいま華麗に男達を翻弄する姿はただただ強くて、綺麗で。
いつの間にか体育館は人で溢れて、みんながまた夢を見つめてる。
試合終了の笛が鳴って、また夢が清々とした笑顔でコートから出る。
結果は一点差で時間が足りなくて追いつけなかったけど、また夢はそんなこと気にしてないみたいで、晴れやかに笑ってる。
誰の目から見ても、あと一分また夢が早く試合に入っていればひっくり返せたことは明白だった。浜田達は命拾いした感じ。
「っ、!」
割れんばかりの歓声に包まれて、堂々と歩くまた夢が、俺の前を通り過ぎる時、目が合った、気が、した。
汗に額が濡れて、前髪が張り付いている。唇はドリンクを飲んだ直後なのか瑞々しく濡れていて、また夢から目が離せなくなる。
これが、人が恋に落ちる瞬間、なんだろう。
妙に冷静に判断してる自分が笑えて、隣で泉が怪訝な顔をしていたけど、そんなこと気にならなくて、いま体育館を出て行ったバスケの天使みたいな女を追いかける。
三橋の家に行くまで、まだ時間は、あるはずだ。
輝
け
る
昼