「食後のデザートはいかがかな?今日はまた夢ちゃんの好きなベリーを使ったタルトにしてみました」



お口に合うかな?とまるで王子さまみたいな仕草できらきら光るタルトと差し出してきたサンジくんに、思わずたじろいてしまう。



「う、うん…ありがとう」



ぎこちない笑顔を浮かべる私を見て、一瞬さみしそうな顔をしたサンジくんは、困ったようにへらりと笑うとじゃあごゆっくり、と言ってキッチンに戻って行った。


どうしよう、怒らせちゃったかな。

サンジくんはいつもいつも私に優しくしてくれて、女の子扱いしてくれるけど、小さい頃から男の子に紛れて遊んできた私にはそれが恥ずかしくて、どう接すればいいのかわからない。





「……で?あんたはどうしたいの?」

「どうしたいっていうか、……どうしたらいいの?」

「私に言われたってわからないわよ!」

「ですよね………」



ナミの迫力に気押されて、つい謝る。

一連の話を相談して、どうしたらいいのか聞いていたけど、未だ進展はない。



「いいじゃない。あれはやりたくてあぁしてるんだから勝手にやらせておけば」

「でも、…」



やっぱりなんだか恥ずかしいよ、と続けるとナミはあきれたように息をつく。

ナミはスタイル抜群だし顔もすごくかわいいし、性格も陽気でおちゃめで太陽の光をめいっぱい受けて育ったみかんのような女の子だからお姫様扱いされることも男の人にちやほやされることも馴れているかもしれないけど、私は違う。

いつだって泥だらけになって遊んで傷だってたくさん作ってひっくり返って笑っていた。

女の子として見てくれる人なんていなくて、それでよかった。

だけど、サンジくんは違う。

サンジくんにとっては生物学上女なら全員レディーみたいで、全員に優しい。


そう、全員、に。



それがまた、私の心を刺激する。

いつだっただろうか。私に紅茶やお菓子を持ってきてくれるサンジくんに、どきどきしはじめたのは。
そして、ナミやロビンにも優しいサンジくんを見て、心臓が痛くなったのは。







「…夜風は女性の身体には毒だよ」

「!!っ、さんじ、くん、!」

「ごめんね、……恐がらせちゃったかな」



夜、ふらふらと波の音を聞いていると後ろから声をかけて振り向くと、昼間ちょうど話していたサンジくんがいて、驚く。

そんな私をみてなにか勘違いしたのか眉を下げてサンジくんは謝ってくる。
その両手には、あたたかい湯気をだすマグカップ。



「これ、よかったら飲んでよ。……じゃあ、ね」


その片方だけ出して、少し寂しそうに立ち去ろうとする背中を慌てて止める。
ふたつ持ってたってことは、それはきっとたぶんサンジくんの分で、それをここに持ってきたってことは一緒に飲もうとしてくれた、ってことだ。


「、サンジくん!」

「!、なにかな?」

「……いっしょに、の、のまない?」



なんだかちゃんと誘うのが気恥ずかしくて、すこし俯きながら言うとサンジくんがこっちに近寄ってくる気配の後、すぐ優しい声が降ってくる。




「もちろん。よろこんで」

「ありが、とう…」



顔を上げるとそこにはなにかを愛しむような顔があって、さらに恥ずかしくなる。





「でも嬉しいな、また夢ちゃんからこうやって誘ってもらえるなんて」


俺、嫌われてると思ったから、と自嘲気味に言うサンジくんに、いままで飲んでいたハーブティーから顔を上げてとっさに否定する



「ち、ちがうの、!…その、なんだか、はずか、しくて………」



なんの非もないサンジくんが傷つくのが嫌で、素直に言うと今度はサンジくんの驚いた顔。


もう、いいや。言っちゃえ。言っちゃえば、いいんだ。
このままサンジくんにへんな態度取り続けるよりも、よっぽどいい。



「サンジくんが、私だけじゃなくて、みんなに、女の子に平等に優しいのは分かってるけど、それでもやっぱり恥ずかしい、の。他の子と一緒が、つらいの、…」



はちみつの入ったハーブティーは素直に心をさらけ出すのを手伝ってくれたみたいで、よかった。
これでサンジくんが勘違いして嫌な気分になることは、ない。



「……俺は、平等なんかじゃないよ」

「え、?」



いつもよりも低いサンジくんの声に驚いて顔をあげれば、真剣な瞳が私を捕えて、目が離せなくなる。



「もちろんレディーはみんな大切だ。だけどまた夢ちゃん、君は…ちがうんだ」



違う、と言われてもピンとこない。
私はレディーじゃないと言ってるなら大きく頷いて納得できる。
でもサンジくんはいままでずっと“レディー”として私を扱ってきてくれたはずだ。荷物は断っても持ってくれたし、ドアを支えてくれるのも日常茶飯事で、優しいことこの上ない。




「俺も、好きな子には特別になるんだよ」



サンジくんの片目は髪で隠れていて見えないけど、それでも彼の顔が赤いことは分かって、これが冗談なんかじゃないと理解する。



「また夢ちゃんの好みに合わせてデザート作ってたんだよ。紅茶も、料理も」



言われて思い返してみればサンジくんの出してくれるものは私の好みにぴったりだ。
もちろんサンジくんの作るものはなにもかも美味しいけど、それにしても好みに合いすぎていた。




「サンジ、くん、」

「…避けられてたから、どうしようかと思った」

「ごめん、」


恥ずかしかったと言っても、それでサンジくんを傷つけてたなら最悪だ。
本当に申し訳なくて謝ると、サンジくんはとろけるような笑顔で言った。



「好きだよ、また夢ちゃん」



あぁ、私の心はもう決まってる



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