耳の奥で、飛行機の飛び立つ音の残響が、震える。
都会育ちの俺でも目が回りそうなほど人で溢れかえっている空港は、大勢の人が大きな鞄を抱えて忙しそうに動いている。
まわりの奴らの顔なんて見ていられないほどの人ごみだけど、それでも10人中8人くらいの女は俺の隣に立つタカシに熱い視線を向けていくのを忘れない。
だけど人の視線をスルーすることに慣れているタカシはそんなの気づいたそぶりも見せないで、瞬きもせずに到着ゲートをじっと見つめている。
俺たちの太陽がアメリカに飛び立ってから、いままでの俺の人生で一回も見たことの無かった海外の飛行機のサイトを何度のぞいたかわからない。
毎日あいつのフライトが変更されてないか不安で、そして毎回変わらぬ情報があってそのたびにほっとすると同時にあいつの笑顔を心に思った。きっと、いまはこんなクールな顔してるタカシも俺と同じようなもんだったんだろう。
今日、店番できないことは半年前からおふくろに言っておいた。
俺とタカシはなんの約束もしてなかったけど、俺たちはあたりまえのように今日の朝合流して、ここに来た。
もうすぐ、もうすぐ、だ。
到着ゲートからは途切れることなく人が吐き出されていて、小柄な女は簡単に埋もれちゃうだろうけど、見逃さない。見逃せるはずがない。
だって、この六ヶ月間想わない日は無かった。
あいつの連絡先は日本で使っていた携帯しか知らないから全く取れなかったけど、あいつが俺の心からいなくなることはなかった。
女、女、女。
あいつが乗っているはずの飛行機が到着してから数十分。
だんだんとじれったくなってきて、もしかしたら、なんて頭に最悪のイメージがよぎる。
だけど、そんな小心者な俺と、タカシは違った。
ただじっと腕を組んで、確信と自信を持った瞳でただずっと前を見据える。
瞬きの回数も少ないから、モデルのような顔立ちは人形みたいに見える。
そんな親友の顔をぼけっと見ていると、不意に、その顔が、動いた。
瞬間、動じることの無かった目が大きく開かれて、そのまま不敵な笑を唇の端に浮かべて歩き出す。
俺もつられて歩きながら、慌ててゲートを見ると、そこには夢にまで見た、
「っ、女!!!!!」
俺が出した声か、タカシが出した声か、分からない。
だけど、そんなことどうだっていいんだ。
その声に気づいた彼女が、瞬間きょとんとしてから、こっちを見て最高に嬉しそうなとびきりの笑顔を見せる。
俺たちの大好きな、太陽のみたいな笑顔。
俺たちの、夏が始まる。