俺の横で一瞬風が通り過ぎた、と思ったら女が立ち上がって、VIPルームの重たいドアを開いて入口に走って行った。

俺はまったく状況について行けなくてタカシを見るけどこいつはいつもどおり余裕で酒を飲んでいて、さらにわけがわからなくなったから、仕方なく無能な俺はタカシに聞く。


「…どういう事だ?」

「どうもこうも、女がユウリに会いたがったからそれをユウリに伝えた。リンがくるのは知らかなったけどな」

「会いたがったって…」



女は不本意だったけど、結果的にタカシをユウリから奪ったのにその彼女に会いたがってそれをタカシに伝えるなんて。どういう神経してんだ。
でも、そういうところも女らしいな、とも思う。


育ちの悪い俺は野次馬精神丸出して、思わず入口の方を見ると女が力いっぱいユウリとリンを抱きしめているところだった。

俺がタカシに訪ねて目を離したほんの一瞬の間に何があったのは全くの謎。
どうしたら奪った側と奪われた側がそんなに楽しそうに笑えるのかも謎。
だけどこれは全て女のあのあか抜けた性格のなせる事なんだろうな。


しばらくすると女が戸惑い気味のユウリの手を引いて、こっちに向かってきた。

部屋に入ってきたユウリが、なんとなく照れながらタカシに目で挨拶するとタカシも少しグラスを傾けて合図した。



「来てくれて本当に嬉しい!あっちに戻る前に2人の可愛い顔、どうしても見たくてさ」



眼福眼福、と満足そうに笑っている女に、俺はただ驚く事しかできない。
なのに相変わらず余裕そうに笑っているタカシは、ちゃかすように言う。
この場合一番気まずい思いをするのはタカシのはずなのに、本当に図太い神経。



「好きなのは顔だけなのか?」

「あのね、私が”顔が好き”って言うのは最高の褒め言葉なんだよ」

「どういう事だ」

「あれ、言ってなかったっけ。私、人の顔見れば大体性格わかるんだよね。だから私の言う”顔が好き”は外見も内面もめちゃくちゃ好きって意味だよ」



なんでもないように言い放つ女に、驚くより先に俺の好奇心が出て聞いてしまう。


「俺の顔は?」

「うーん、…私素直だよ?」

「知ってる」

「ごめんね、顔は好きじゃない。でも内面は好きだよ。器用貧乏で苦労性で、めんどうになるってわかってても見捨てられないところが。マコトも人を見抜く目があるからね」



はっきりと面と向かって顔が好みじゃない、と言われたのに不愉快じゃないのはなんでだろう。
そしてこんな振り返ってみれば短期間しか一緒にいなかったのに、俺の性格をぴったりと言い当てた事にもびっくりする。

タカシも驚いたのか、少し身を乗り出して俺の顔は、と聞いた。
女はじっとタカシの顔を見つめた後、考えたように言う。


「……言っていいの?」

「あぁ」

「タカシの顔は、整ってるね」

「それで?」

「嫌いな顔じゃないよ。っていうかタカシの顔に不快感を抱く人は少ないと思う」

「…………………」


なんともめずらしく回りくどい言い回しをする女を、じっと黙って見つめるタカシ。
そんなタカシを見て、女は諦めたように息を吐いて話だした。



「タカシの内面は、はじめて合ったときこの人には近づきたくないな、と思った。だってタカシは自分以外の他人を受け入れるのがすごく苦手だから。…でも、本当は誰より人を求めてて、愛を求めてるのが、見えた。さみしかったんだね」



じっとタカシを見つめる女の瞳はどこまでも深くて、俺がずっと傍にいても分からなかったタカシの心の奥底を会った瞬間で把握してっていうのか。世界には想像もつかないような特技を持った奴がいるもんだ。



「悪い人じゃないのはすぐ分かったよ。でも、冷たい人だと思った。決めたら絶対やり通しちゃう強さと冷淡さをもった人だな、って。だから気になっちゃったのかな。不器用に見えたから。いつも素顔を隠して余裕な顔して。いつかこの人は粉々に砕けちゃうんじゃないかなって思った」


でも、と言葉を切ってから、太陽みたいな笑顔で女は言う。



「もう、大丈夫みたいだね。顔つきが変わったよ。いまのタカシの顔の方が、好き」


女の言葉を聞いて見慣れた親友の顔を見てみたけどそこには相変わらず澄ましたいい男の顔があるだけで、俺には全然分からない。

だけどタカシの内面が少し変わってっていうのはわかるかも。
それは全て女の影響なんだけど、そんなことこいつには関係ないんだろう。


つい先日の修羅場なんて嘘みたいに笑い合う俺たち。
その中心にいるのはいつだって女だ。
いつでも楽しそうに笑う女が、俺たちみんな大好きで、そんな俺たちを女も好いてくれていると思う。

なんて幸せな夜なんだ、と思った。

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