耳元で音が弾けて、一瞬目の前が真っ白になる。
なにごとかと間抜けに辺りを見渡すと、なんてことない。Gボーイズがそれぞれ小さいガキみたいにクラッカーを持っていた。
女が入ってきたと同時に鳴らされたそれは一瞬でラスタ・ラブのフロアを小さな紙吹雪でいっぱいにした。
そして方々から呼ばれる女の、名前。
それに対して女はにっこりと笑って答えている。
Gボーイズは女がアメリカに戻ると分かってから大きく動揺した。
こいつらにとっても女はこの短期間でなくてはならない者になっていたし、すっかりずっと日本にいるものだと思っていたから突然の別れに驚かない奴はいなかった。
だけどみんなが納得出来たのは、きっとみんな女がどういう奴か知っていたから。他人が引き止めて留まるなんて女じゃない。自分の道は自分で決める、そういう奴だ。
今日は女のお別れパーティーってとこ。
成人式の後じゃ慌ただしくなっちゃうから、と珍しくGボーイズが常識を発揮して企画された。
こんな、Gボーイズでもない奴のためにGボーイズによって催される企画なんてはじめてかもしれない。
それはきっとこいつがキングの女だからじゃない。女が女だから、だ。
口々に女の名前を呼ぶ奴らは満面の笑で歓迎していたり、みっともなく泣いていたり忙しそう。
いつもは武闘派として恐れられてる奴らの泣きはらした顔なんで誰が見たいんだ。
綺麗好きな俺が思わず苦笑してしまう厳つい野郎の泣き顔にも、女はやっぱり笑って答えてハグをする。
基本的に人ごみが嫌いなキングはいつの間にかもうVIPルームのベルベットのソファーに腰を沈めてる。
俺も早いところ抜け出そう、と思って歩を進めたけど、不意に聞こえた声に足を止めた。
「女さん、あのこれ、ありがとう…」
いつの間にか女を囲ったのは、あの事件に巻き込まれていたGガールズ。
入院していたって聞いたけど、もう良くなって退院したのか。
そいつらが各々持っていたのは、綺麗にたたまれて袋に入った女の服。
あの日裸同然で床に転がっていたGガールズに女が着させた服だった。
一瞬女は不意をつかれたかのようにきょとんとして、そしてすぐに全てを悟ったのかものすごく嬉しそうな笑顔を見せる。
「もう、大丈夫なんだ。よかった。…服は返してくれなくてもよかったのに。でも、ありがとうね」
あんな高級な服を返さなくてもいいのに、なんて言える日は俺には絶対来ないけど、それでも自分の貸したその服を返されたときにこっちからありがとう、と言える人間にはなりたいな、とぼんやり思う。
「病院で、女さんのこと聞いて、ずっとお礼が言いたかったの。本当にありがとう」
「私はなんにもしてないよ。これからは自分の価値を理解して、ちゃんと愛す人を探すんだよ」
「でも、私たちの価値なんて…」
レイプされたことを思ってか、それともヤクをやってたことを思ってか。
そう悲しそうに目を伏せる女たちに、女はとびきり優しい顔をした。
「自分たちの価値がわからなくても、あなたたちを助けてくれた人の価値はわかるでしょ?Gボーイズの仲間とか、タカシとか」
ゆっくりと言葉を紡ぐ女にGガールズが黙って頷く。
それを見て女は満足そうに言い放つ。
「そんな価値のある人たちに救われたんだよ。あなたたちに価値が無い訳がない」
「ありがとう……っ」
ぽろぽろと涙をこぼし始める女たちを、女は静かに抱きしめた。