「…ごめん。私、無理」

「……そうか」


まだ視線は電子パネルに向けたまま、だけどはっきり放った言葉にタカシも頷いて返す。



「駄目だ。私の居場所はここじゃない。あそこだ」



あそこ、っていうのは映像の中の自由な世界のことだろう。
たしかに、女にはこんなモノクロな池袋の街より100倍似合ってる。



「…あっちに、戻るのか」

「ごめんね、マコト」



見苦しいのは分かってる。だけど確認せずにはいられなくて、女の決心を問いただす俺に、映像が切り変わって見る物を失くした女は、笑って答えてくれる。
その両目からはまだ透明な水が流れ続けているけど、その笑顔はずっと俺が見たいと思っていたそれで、こっちまで気が抜けたように笑ってしまう。



「…俺は、女には、精一杯思うように生きてほしい。俺のためにじゃなく、女自身のために」

「ありがとうタカシ。…………I love you more than anything」



愛の言葉を吐き終わって、女はタカシの首に腕をまわして抱きつく。
その女の身体をタカシは包むように抱きしめて、優しく呟く。



「俺も、他の何よりも、愛してる」



泣きながら笑う女と、録音したら池袋中の女が金をつぎ込んで買いそうな特上の愛の言葉を吐いたタカシは、間違いなく世界中の誰よりも愛しあってて、慈しみあってる。



「all you need is love」


タカシから離れて飛びきりの笑顔で言った女は、本当に綺麗で、今更ながら本気出して俺も落としに行かなかったことを後悔した。


毎年池袋の冬の空は灰色なのに、今年は目が痛いほどの青で飾られてる。

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