…それは、いつもと変わらない日、のはずだった。


女の成人式を五日後に控えて、年始で暇な俺たちは特にやることもなく街をぶらぶら流していた。


笑う女に、微笑むタカシ。
付き合ってる奴らと一緒にいると疎外感とか鬱陶しさを感じるから、カップルと一緒に出歩くなんて前の俺じゃあ論外だったけど、そのカップルが女とタカシだと話は別だ。
こいつらといる時間は最高に楽しくて、満ち足りてる。カップルだとか、俺が完全に邪魔者だとか、気にならなくなる。
そしてそんな無神経な俺に女は嬉しそうに笑ってくれるし、タカシは女が笑ってればそれでいいみたい。



だけど、そんな風に永遠に続くと思った幸福な時間は、止まった女の足と共に顔色を変えて、どっかに逃げてっちまった。

女が足を止めたのは、街中のビルのでっかい液晶パネル。
いつもは俺には関係ない高徳なニュースとかくだらないCMなんかが流れてるけど、その時は違った。
無意味なまでにでかく作られたパネルに映し出されていたのは、この前Gボーイズの一人がライブのチケットを女にやった、女の大好きなバンド。
どっか外国の野外で行われたらしいそのライブの映像では、映し出される奴全員が思い思いに身体を動かして、酒を撒き散らして、ただ、素直に笑っていた。
見ていて清々しいほどの笑顔。それは、ついこの前まで女が持っていたもの。だけど世界一を捨てるのと一緒に、欠けてしまった大切な一部。


食い入るように、それこそまばたきも忘れて画面を見入る女の顔を眺めながら、俺とタカシも歩を止める。
声をかけることなんてできない。
俺たちにそんな権利は、無い。


無表情のまま、でも必死に上を見ていた女の表情が動いたのは、その映像の中でこの前女がラスタ・ラブでかけてもらってた曲が流れた時だった。
お気に入りなんだ、とチャーミングに笑って、踊っていたその曲。

その曲のイントロが流れ始めると、女がはっとしたような顔になって、それからその両目からはらはら水が流れ始める。

それでも俺たちは触れることどころか声をかけることもできない。
ただ間抜けに立ち尽くすしかない、無力な俺たち。


そして、女が決意の言葉を紡ぐ。



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