夜が深まってきて、窓の外で吹く風の音に寒さが増してきた頃、女が立ちあがって口を開いた。
「さて。そろそろ帰ろうかな」
「もう帰るのか?」
「うん。明後日は可愛い従兄弟の誕生日だから、いろいろ準備しなきゃ」
あーお腹いっぱい、と気持ちよさそうに伸びをして赤いマフラーをくるくる首に巻く女を見つめるタカシの瞳は、儚いものを見つめているような、どこか縋るような視線で俺の方がドキリとする。
「…下まで送って行く」
「いいよ。寒いからここにいなって」
「行く」
ジャケットを手に掴んで、タカシは絶対に引かなかった。
とうとう女が根負けして、2人で一緒に玄関に向かう。
「じゃあね。ごはんありがとう。おいしかった」
「また来てね」
「今度は邪魔なタカシとマコトは抜きにしようね」
くすくすといたずらに笑う3人と、邪魔者扱いされた俺たち。まったく、立つ瀬が無いだろ?
最後に下まで送るタカシを除いた俺たちにハグをしてから、極寒と化した外へなんの躊躇もなく軽やかに女は足を踏み出す。
「Merry Christmas Eve. You all will have greatest night」
流暢な英語での祝福の言葉を残して、扉が閉まってタカシと女が冬の闇の中に消える。
それを見送るユウリの顔は、穏やかなものだった。
全てを受け入れているような、潔い顔。
こんなにいい女を捨てて、他の女を狙ってる、なんて世界中の男を敵に回しそうな行為だけど、それでも納得してしまう。
女の言葉が、存在が俺たちの心を温めて、固く凍ったそれを溶かすんだ。