「クリスマス?家族と過ごすけど」
タカシの問いかけに一瞬の間も置かずに即答した女はやっぱりただ者じゃない。
まず池袋の女ならタカシからクリスマスになにをしているのか聞かれたら一気に期待して瞳をハート色にするだろう。池袋の女じゃなくたってこんなに良い男からクリスマスの予定を聞かれたら誰だって頬くらい染めるっていうのに淡々となんでそんなこと聞くんだ、とでも言いたげな顔で女が言ったんだから吹き出さずにいるほうが無理だろ。
「…じゃあ24日は」
タカシがにやつく俺を見て冷たく睨んできたけど、喰い下がって日にちを変更するようなキングにいくら睨まれたって怖くない。
本当、女が絡むと愉快な奴。
「イブ?…イブならとくに予定ないけど」
まったく日本人は前夜祭が好きだね、と呆れたように女に言われて納得する。
そういえばここ最近はクリスマス当日の25日よりも前夜の24日の方が本番、って感じするな。なんでなんだろう。
「じゃあ、私のマンションでご飯作るから食べに来てくださいよ」
タカシと自分と女の間で悩む心をまったく見せずにユウリが明るく言う。
悩む、っていうのはもう違うのかも。もう決着は着いてるんだよな。
自分が大好きな奴と絶対確実に別れるって知ってるのはどういう心境なんだろう。俺には想像もつかない。
「…いいの?日本ではクリスマスは恋人達がいちゃつく日なんでしょ?」
「いいんだよ。俺たちは、女といたいんだ」
女が日本を発つ日が来月の11日だと聞かされたときは正直動揺した。
最初から女は一時帰国って言ってて、俺たちもそれは知っていたはずなのにだんだん女が日常にいることに慣れ過ぎてあたりまえになっていて、女がいなくなる日がくることなんて忘れてた。
あまりに女がいることが自然になりすぎた。もう、こいつに会う前の生活が思い出せないほどに。
タカシも焦ってるんだと思う。
心の底から惚れた女となにもないままお別れ、なんて我儘なキングが耐えられるわけがない。
タイムリミットは、迫っている。
今回のクリスマスのことを言いだしたのもタカシだった。
俺とリンとタカシとユウリと、そこに女を加えてクリスマスに集まらないか、なんて。
長いことタカシと友達やってるけどこんなお誘いは始めてだった。
「ちょうどよかった。24日はおばあちゃんがいないから夕飯の予定もなかったんだ」
「そうか。それじゃあ決まりだな」
女の返事にキングが唇の端をつり上げながら上機嫌に言う。
こいつは一体、いつ動くつもりなんだろう。
ユウリの心構えはできてる。タカシの気持ちも完全に固まっているはずだ。
俺が知らないのは、自由の風に吹かれて育った眩しい女の心だけ。
いつも飄々としていてタカシのアピールに顔色一つ変えないどころかけらけら笑いながら茶化すのになにかと俺たちと一緒にいてくれる。
俺たちといるのは、ただ友達として楽しいからいるのか、それとも少しだけでもタカシを男として意識しているのか。
だめだ。全然わかんない。
まぁ、俺の考えることじゃないよな。
たしかに心配ではあるけど俺がどう足掻いたって女の気持ちを変えることができるわけじゃないし。
女はふらふらくるくる思うままに生きているみたいなのに絶対誰にも気持ちを揺るがされない頑固なところがある。
自分をしっかり持っていて、自分が正しいと思ったことはやり通しちゃうような、そんな性格。いまどきめずらしい、池袋のキングにそっくりだ。