汚いウエストゲートパークも1人の飛び切りの美人が立つとそれなりに絵になるってことは俺は最近ユウリを見ていて学んだことだ。

そんな目を引くほどの美人とサシで並んでいるのは少しだけ緊張するけど悪い気分じゃない。


話がある、と切りだしたユウリに場所を変えようかと持ちかけたけど王様の彼女はこの木枯らしに吹かれながらのデートが御所望だそうだ。



「…タカシさんの、ことなんだけど」



ユウリが俺のところにきて話があると言った時点で奴絡みの話というのは分かっていたけど、やっぱり言葉に出して言われると身構えちゃう俺って小心者。



「最近ね、すごく、…楽しそうなの」



女ちゃんの、おかげだよね、と言った瞳は笑っていた。
それを見て女の心に鈍感な俺もようやく理解する。こいつは全部をもう知っていて、受け入れてるんだ。



「タカシさんは優しいから、私のこともちゃんと大切にしてくれるの」



そりゃそうだろう。
小さい頃から知っていて、半年間付き合って、その後レイプ被害まで受けた女に優しくしない男がどこにいる。



「…あのね、私といる時は滅多に表情も変えないのに、女ちゃんと一緒にいる時は、本当に子供みたいに笑うんだ」



それなら俺も知ってる。
女といる時のタカシはガキの頃に戻ったように表情豊かになる。
素直に反応するから見ていて楽しい時すらある。あの隙を見せないキングが、だ。



「タカシさんは、私が酷い目にあったのが自分の責任だと思って、寄りを戻してくれたの」



するりと出てきたユウリの言葉に俺は驚いて整った顔を見る。
それは紛れもない事実だけど、ユウリがそれに気づいてたなんて考えたこともなかった。
間抜けになにも言葉を紡げないでいる俺を見てユウリはおかしそうに言う。


「ふふ、それくらいわかるよ。付き合う前も、別れてからもずっと、ずっと見て来たんだもん」



なるほど。全ては観察に基づくデータ解析ってことね。

感心している俺を尻目にユウリはすっきりした声を出す。



「女ちゃんは、すごいよ」



この一言には一も二もなくただひたすら同意だから黙って頷く。
どこがどうすごいか、なんて考える必要もない。
あったその瞬間、感じたんだ。



「キラキラしてる」



明く語るユウリの顔は恋敵の話をしてるそれとは思えない。



「あの子がそこにいるだけで冬の夜が明るくなって、笑った瞬間世界が輝く」



やっぱりそう感じていたのは俺だけじゃなかったのか。
キラキラ、暖かい太陽みたいなんだ。女がいるだけでモノクロの世界が色を付ける。



「最初はもちろん戸惑ったし、タカシさんが他の人に魅かれて行くのを見るのはつらかった」



そりゃそうだよな。
別れてからも甲斐甲斐しくGボーイズのミーティングに顔を出してまで会いに来てた男が突然やってきた女に夢中になる様を見たい女なんていなだろう。

どんな類の慰めの言葉をかけるべきか考えていると、俺の心配をよそにユウリはまた明るい声で話し始める。



「…、でもね、たぶん私も最初から女ちゃんに魅かれてたんだと思うの。他人を思ってあんなに素晴らしいスピーチができる彼女に。あんなふうに怒れる、彼女に」



遠い目をしたユウリが思っているのはきっと最初に女と会った夜のことだろう。

身体の芯まで震えるような、寒い夜だった。
王に従順なGボーイズはここ、ウエストゲートパークに集まっていて、そこに来た、赤いマフラーが目を引く女。

あの夜、女に心を掴まれ、揺すられなかった奴はいない。
みんながみんな自由でやわらかい心を持つ女の虜になった。



俺もつい最近なのになぜか遠い昔の記憶に感じるあの日を思い返していると、隣に座るユウリに柔らかい声できかれる。



「ねぇ、マコトさん。私はどうすればいいかな?…どうしたら、タカシさんが一番楽かな」



予想外の話に、俺はまた間抜け面を披露する。
ここまで来て、自分の男が他の女に流れそうなのを見て、女からこんな言葉が出てくるのはドラマの中だけだと思ってた。

この美人はどこまでタカシに甘いんだ。

でも、ユウリが身を引こうと思ってるなら、仕方ない。
俺がここでそれを止めてタカシといさせても、誰のためにもならないことくらい分かる。

だけど、やっぱりタカシを甘やかせるのはいけないと思うんだ。



「それはユウリが考えることじゃないよ。タカシ自身が決着をつけることだ。こっちから手を差し伸べてやることなんてない。最後くらい困らせてやれ」



本音を言うと、タカシは女関係で困る姿を見てみたかったのもあるけど、やっぱりこれは女から切りださせるような話じゃないだろ。俺は、俺の親友にはちゃんと自分でケリをつけてほしい。



「困らせる、か。…そうかな、………そうだね。待ってみる。」

「あぁ」



俺の言葉に少しだけ表情を崩したユウリはやっぱり綺麗。

礼の言葉を残して街の喧騒の中に戻って行こうとするユウリの背中に、思わず叫ぶ。




「ユウリ!…おまえだって、充分いい女だよ!!」



馬鹿みたいに叫ぶ俺を、ユウリは驚いた顔で振り返ってから綺麗な顔で笑った。



「…ありがとう!」



やっぱり同じ言葉をかけられても女とは違うリアクション。
でも、どっちもなかなかいいじゃないか。


一度ぼろぼろに傷ついて、そこから這い上がってきた奴は強い。特に、女性はね。
さすが、地球に新しい命を生み出す存在なだけある。男にはない強さがあるよな。

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