「じゃあ私、明日のライブに備えて寝るから!おやすみ!」
さっき陽が沈んだばっかりだっていうのにさっさとMR2に向かいながら女が言う。
その顔は本当に嬉しそうでチケットがよっぽど嬉しかったんだろう。
「マコトもタカシもたまには早く家帰って寝なよ。じゃあね」
今日もハグをしながら優しい言葉をかけられる。
そうだな、たまには早く家に帰って街が眠りに就くよりも先に寝るのも悪くないかも。
心地いいエンジン音を響かせながら女の運転するスポーツカーが走り去った後、さっきまでMR2が止まってたところに今度はRVが音も無く滑り込んできて、止まる。
「じゃあなマコト」
「なんだよ、女が帰った後はさっさとおさらばか?」
「まぁそんなところだ」
からかいまじりにベンツに乗り込むタカシに声をかけるとあっさり肯定の言葉が帰って来て拍子抜けする。素直な王様なんて気持ち悪い。
風のようになめらかにRVが遠ざかって行くのを見てからもう一度ウエストゲートパークのベンチに腰掛ける。
きっとタカシは今日もなんかガキの王としての職務があったんだろう。だけどそれを後押しにしてまで女のいるここに足を運んだんだろうな。なんて甲斐甲斐しい王様だ。
周りが静かになって、頭を空っぽにしてみてもやっぱり考えちゃうのがタカシと女と、それにユウリの事。
ユウリはここ最近のタカシの事をどう思ってるんだろう。言っちゃなんだがタカシが女をマークしてるのは隠しようがないほど、いや隠す気がないのか明らかだ。
気になってないはずが、ないよな。
あれから何回か女とユウリとリンは会ったりしてるけど、ユウリがなにか女にタカシことについて言ったりするのは見られなかった。
でもいつかは、決着と付けなきゃいけないんだろう。
「………あの、マコトさん」
「!…ユウリ」
ぼーっと空を見上げていたら急に鈴のような声で名前を呼ばれて慌てて視線を地上に戻すとそこには今まさに考えていたユウリが立っていて、驚いた。
「すこし、相談したいことがあるの」
池袋じゃ群を抜いて目を引く美人にしゅんとしながらこう言われて断れる男がいるなら会ってみたいもんだ、と思ってからすぐに1人の男の顔が脳裏をよぎる。
…きっと、あの王様なら断るんだろうな。あの自由な女の頼みじゃないかぎり。