集会の後、女の元にすっかり魅せられたガキ共が詰めよる。
それに対して見事なカリスマ性を魅せ付けた女は嫌な顔ひとつせずにひとりひとりと握手してハグを送るんだからさらにガキ共はさらにこいつに夢中。



「いいスピーチだったよ。流石だな」

「スピーチなんていう大層なものじゃないよ」



やっと女の周りから人が掃けてきたから俺も惜しみない称賛を送ると少し照れくさそうに笑うんだから可愛いじゃないか。



「紹介するよ、こいつはリンとユウリ」


リンとユウリには待ってる間に女の事は話しておいたから、今度は女に紹介する。ちなみにこの2人は見事に女の言葉に泣かされた、ファンってとこかな。
自分の経験した辛い思い出と、世界一の大学に通うカリスマが語ったスピーチの内容が融合しあって、ぼろぼろ涙を零してた。



「はじめまして、こんばんは。うわー、2人ともめちゃくちゃ可愛いね。なに食べたらそんなに背が大きくなるの?かっこいい。羨ましい」


天才演説家は口を開いた途端俺の彼女を口説き始めたんだから、慌てる。こいつは最初俺とタカシに会った時物凄く興味無さそうにしてたのに女にはなんでこんなに優しいんだ。
べた褒めされた2人はどういう反応をしたもんか迷ってるし、ガキの王様は苦笑している。



「タカシもマコトもお手柄だね。こんな綺麗な子ゲットしちゃうなんて」



こうも素直に褒められると悪い気はしなくて、今度リンとの出会いからこの関係になるまでの苦労の道のりをゆっくり話すのも悪くないと思った。きっと気持ちよく聞いてくれるはずだ。



「いやー、でも本当に可愛いね。特にユウリなんて私の好みどんぴしゃ。箱に入れて飾っときたい…」



さっきまで三桁の人間を魅了していた奴とは思えない変貌っぷりにどこまで本気か分からなくなる。…いや、この女の場合全部本気か。



「女にそっちの気があったなんて知らなかったな」



ユウリがさらに困っていると彼氏であるタカシが茶化すように女に言うけど自由の国でのびのび生きてる女には全然効かないみたいで、けろりと言う。



「男が美しいと思うものをなんで女はそう思っちゃいけないの?男しか愛せない、とか女しか愛せない、なんて人生損してるよ。美しいものは愛でなきゃ。みんな愛したいものを愛せばいい。私は博愛主義だからね」



言われてみれば確かに正論に思えないこともない事を言う博愛主義者。タカシが言い負かされるとこなんてはじめて見た。



「でも本当にユウリ可愛いな…飾って置きたい。タカシと私、趣味似てるのかもね」



さくさくと氷の削れるような音がしたと思ったらタカシが笑ってる。更に女がカメラ付き携帯を出してリンとユウリに写真とってもいいですか、目の保養に!なんて言い出したから王はしばらく笑いのツボから出て来れない。タカシがこんなに機嫌いいとこ見たことない。それはユウリも同じ見たいで驚いて茫然としていて、その隙に獲物を見つけた女に写真を取られる。



「あの、すごく感動しました!ストレートに胸に入ってくるっていうか、心の柔らかいところを刺激された感じがして…。私も昔男の人関係で嫌な事があって、…でも、女さんのお話を聞いて、なんだかすっきりしました」

「私も!なんか、いろんなことができる!って思えるようになった」


女のペースに乗せられながらも言葉を紡ぐユウリとリンをきょとんとした顔で見てから女は嬉しそうに笑う。



「…ありがとう。まぁ途中はジョンの受け売りだけどね。愛ってものは言うほど簡単じゃないから。」



大物ロックスターをファーストネームで呼び捨てなんて、本当にアメリカンな女。
だけどこの気さくさと人懐っこさが俺やタカシを惹きつける。それに今夜からユウリとリンもね。




「これからどうやって犯人を追いつめるの?」

「女の手に入れてくれた番号と名前で、活動場所を割る。Gボーイズを使って人海戦術だ」



女のリンやユウリと並んでも背の小さい女はタカシを見上げて尋ねるともう決まっていた作戦を冷たい風に乗せてタカシが話す。



「ねぇ、それで見つかったら、どうするの?」

「聞きたいのか?」



タカシが物騒な笑顔を浮かべて冗談めかすけど、女は依然と真面目な表情のまま口を開く。



「もしその場所に行くなら、私も連れてって」

「でも、女ちゃん、危ないんじゃない…?」



ユウリは伊達に長いことGボーイズを見て来たわけじゃない。
犯人を見つけた時にタカシがそいつをどうするかは知っているし、女にはちょっと乱暴な現場になることも耳にしてるだろう。


でも女はユウリの忠告に緩く笑うだけで、また真っすぐタカシを見る。



「お願い。私に最後まで見せて」



その言葉は暴力に恐怖する女の弱いものでも、野次馬的な軽いものでもなくて、女の瞳にはほんの小さな揺らぎさえ無いのを見てタカシは無言で頷く。



「ありがと。こういうとこがタカシがあんな人数まとめられる所以だね」

「…当日は俺から離れるなよ」

「わかった」



やろうと思えばあのくらいの人数くらい指揮できる、ってことを実演してみせたのに女って強気のくせに謙虚な奴。
タカシの言いつけに素直に頷いた女に、服従されることに馴れてるはずの王様は柄にもなく嬉しそうに小さな女の頭を撫でた。

そのタカシはびっくりするくらい優しい顔で見てるこっちも思わず頬が緩みそうになっちまう。
そんなキングの顔をユウリが複雑そうな顔で見ていたことなんて、俺はまだ知らない。


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