ミシリ。
タカシの握るボトルが悲鳴を上げたのはもう何回目になるだろう。



「おいタカシ、クールになれよ。ボトルでも割って注目集めてみろ、いままでの女の努力が無駄になるんだぞ」

「わかってる」


クールダウンを勧める俺にタカシは口だけで返事をする。今夜のアイスキングは珍しく怒ってる。アルコールのたっぷり入った堅いボトルを素手で砕いちゃいそうになるくらいね。
まぁタカシがイラつくのも分かる。俺だって気分がいいわけじゃない。



「君1人なの?寂しくない?俺達でよかったら相手するけど」


どっかで整理券でも配ってるんじゃないか、ってくらい間を開けずに顔に隠そうともしない下品な笑みを浮かべた男達が代わる代わる女に声をかけに行く。
男の持ってきた、女を酔わすことしか考えてないアルコール度数のがむしゃらに高いドリンクをたまに女は飲みながら、細い腰に回された見境のない男の腕にその小さな手を重ねたりなんかするのを見て俺の隣に座ってる王様がシベリア寒気団顔負けの冷たい空気を発するからたまったもんじゃない。
声をかけてくる女をタカシは綺麗にスルーして女をガン見だからしかたなく俺がとっておきの甘い笑顔と共に声をかけてやるのにその瞬間女たちは途端に俺が見えなくなったかのように無表情で去って行く。まったく渋谷でも池袋でも女の趣味は悪いったらない。



「えー?どうしようかなー」



パキン

女が甘い声を出して男の耳に顔を寄せてとろけるような笑顔でなにか囁いた瞬間、ついに負荷に耐えられなくなった哀れなボトルが音を立てて割れた。周りの奴らは流石にこっちに注意を向けたけど女と話してる男は目の前の良い女しか目に入ってないみたいで些細な音なんて聞こえなかったみたい。


「ほんとー?でも、それって、危なくないのー?」

「大丈夫だよ。君には俺が手取り足取り面倒見てあげるから、安心して気持ちよくなれるよ」

「でも、こわいかもー」

「俺を信じてごらん?いろーんな嫌なこと忘れられるよ」



調子に乗った男が女の鼻に自分のそれを擦りつけて額を合わせたんだから、氷点下に達した我慢を知らないキングが立ちあがるから俺も慌てて腰を上げる。



「じゃあ、お金入ったら連絡するから、番号教えて」



さりげなく男と距離をとってくれた女に心から感謝。もしあとコンマ2秒でもあの体勢が続けばキングはこのクラブを戦場に見立てていただろう。


最後に男は女から離れる時に健康的な曲線を描く腰を一撫でするのは忘れない。そんな手つきに女は嫌な顔一つ見せずに応じるんだからすごいよな。




不幸にも池袋一の危険人物の怒りを買いまくった男の姿が完全に見えなくなったのを確認してから女が俺たちの方を見ないで顎を少し揺らす。それだけの動作なのに外に出よう、という意思がはっきりと伝わってきたんだから不思議。


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