事が収まってから、しばらく時間がたっていたのにも関わらず、現場はまだ少し混乱していた。
まぁ、一図書館員が図書館敷地外で発砲したとなればこの騒ぎも道理か、思いながらも内心穏やかじゃなかった。
玄田隊長は早速報告を聞きに行って、小牧と手塚は稲嶺司令を念のため病院へ運びいれる手続きをしている。
みんなが慌ただしく動いている中、俺はただひたすらあいつを探した。
こんな騒ぎになって、驚いていないだろうか。
また良化隊関係者を撃った、と泣いてはいないだろうか。
あの空っぽな顔を、していないだろうか。
少し焦りながら視線を動かしていると、見つける、一際小さい人影。
きょろきょろと辺りを見渡しているその横顔は飄々としていて、少なくともあの空っぽな顔はしていなくて安堵する。
そして安堵したと同時に叫んでいた。
「Bellっ、おまえって奴は、!」
おまえって奴は。
その後の言葉なんて用意していなかった。
だけど、だた名前を呼ばずにはいられなかった。
恐らく俺は怒鳴って叱るつもりだったんだろう。
規則違反だぞ。たとえあんな状況だったとしても、あそこで発砲する馬鹿がどこにいる、と。
だけどそんな言葉はあからさまに怯えたようにびくついたBellを見て、理性と共に捨てる。
「無鉄砲なことしやがって、…馬鹿野郎」
腕の中いっぱいに抱きしめて、深く息を吸う。
柔らかい匂いを肺に入れて、そこでようやく久しぶりに呼吸ができた気がした。
「…、ごめんなさい」
不意にBellが発した謝罪に少し腕をゆるめて様子を窺うが、俺の服を掴んだまま俯いていて表情は窺えない。
「ごめんなさい。あんな事言って、ごめんなさい。あんな事思ってないです。言わなきゃよかった、なんて思ってないんです。…本当は、堂上教官に聞いてもらえて、嬉しかったんです」
防波堤が壊れたようにBellから出てくる言葉の波に一瞬戸惑うけど、すぐに理解して、また抱きしめる力を強くする。
正直、今回の事はあまりにも立ち入り過ぎた、と反省していた。
公私混合にもほどがあるし、上官としてのラインを越した、迷惑でしかない事だったと思った。
こいつの事になるとどうも冷静な判断を失うのは自覚済みだ。
だけどこれはもう変えるつもりはない、と開き直っている。
だから、責められても、迷惑がられても仕方ないと思っていた。
なのにこいつはそれを全部受け入れて、そして俺を許したうえで謝っている。
「本当に、ごめんなさい」
本当に、強いと思う。
ひょっとすると俺なんかが気を廻すまでもないくらい、強い。
だけど、これは俺の我儘なんだ。
好きな女を守りたいと思って、何が悪い。
こいつは、言った。
自分が女を守る、と。
そして俺がおまえはどうなんだ、と聞いたらさっぱりした顔で自分はいいんだ、と言い切った。
だから、俺は女を守ろうとするBellを、心から守りたいと思ったんだ。
「………もういい。……、今日はよくやった。お手柄だな」
ゆるく笑って頭を撫でると、くすぐったそうに笑うから、また強く抱きしめた。