それは、本当に突然の出来事だった。


「哨戒中の警備より入電、良化特務機関が当館周辺に展開中!総員至急警戒態勢に着け!」


響き渡る伝令が発した”良化特務機関”の言葉に体中の血液が冷たく湧きたつのがわかった。

利用者が避難をはじめて、私達も武装準備にとりかかる。

こんな昼間からの襲撃は初めてだったけど、頭は驚くくらい冷静で冴えわたっていた。



「業務部より、敵の本命は、館長室です!」



堂上教官の命を受けて光と正門に向かって走っていると、不意に聞こえる麻子の声。
こういう緊急の時でも凛とした声を聞くのはやっぱり気持ちが良い。



「光、ごめん!」



前を走っていた光に謝って、今来た道を引き返す。
ここからなら多分私が一番館長室に近い。
それに麻子の伝令を聞いたタスクフォースの人全員が大人しく従う保証はどこにもない。

正直正門には人がいっぱいいるはずだし、私1人が抜けてもなんの問題もない。
それよりいま麻子の伝令を無視して、もし本当に良化隊の狙いが館長室だったら、私が行かないと良化隊の好きにさせることになる。



「おまえ、冷静に見えて本当は無鉄砲だよな」

「光!」


すぐ後ろで聞こえた声に微かに振り向くと私の斜め後ろを走っている光がいた。

来てくれたんだ、と呟くとお前をひとりにするほうがやばいからな、とため息まじりに返された。


そんな光に少し胸があたたかくなるけど、目の前に良化隊が見えて、指が自然にトリガーに伸びる。

だけど構えた瞬間良化隊は逃げて、発砲のタイミングを逃す。



「ちっ」

「…………………………」


小さく舌打ちをすると、一瞬光が私の事を見た気がするけど、気づかないふりをする。


無言で良化隊の逃げて行った方向を見ると、そこには、



「階段、……屋上か」

「Bellが開けろ。俺が狙う」

「………いや、我儘言って悪いけど、光が開けて」

「おまえ、」

「おねがい」



はっきりと言い切ると、光も諦めたのかしぶしぶドアノブを握った。
我儘なのはわかってる。だけど、だけどこれは通したい我なんだ。

歯を強く噛みしめる。

いまでも耳にこびりついてるあの子の悲鳴、泣き声。

私の右腕はいまは負傷なんてしてない。
いま、私の右腕にあるのは、黒く光る、重い銃。
これは、私の未来。
救いの無い未来だってことは分かってる。
だけど、これしか私にはない。




「開けるぞ、」


光の声に微かに頷くと、一気にドアが開いて外の明かりが目に飛びこんでくる。
光に目を細める余裕もない。
良化隊は背嚢を持った奴1人だけ。

急に開いたドアに一瞬動きを止めたところを、確実に狙って、撃つ。



「うぁっ…!」




うめき声を上げて崩れた良化隊を光が拘束する。


それを蒼すぎる空を見ながら、ぼーっと見る。

あっけない。
こんなもので終わっちゃうのか。
銃を握っていた両手を広げて見たけど、残っているのは微かな反動の衝撃だけで、ただ、それだけ。


こんな一瞬で…、




「Victoria、手塚、無事か!」

「教官、…」


息を切らして屋上に入って来た堂上教官が私と光の姿を確認して少し安心したように息をついた。



「手塚、救急車が下に来てる。そいつを運んでやってくれ」

「はい」


堂上教官に言われて光が、私が撃った良化隊の人を連れて行くのを横目で見る。

まだ、なんだか現実味がない。
体中の血が流れるのをやめちゃったかのように、何も感じない。




「Victoria、」

「…あっけないですね」

「…………………」

「あの人は、あの日の人じゃないのは分かってます。だけど、それでも撃たずにはいられなかった」

「おまえは図書を守ったんだ。図書を守るために発砲したんだ」

「そんな綺麗事言わないでくださいよ。私は、教官達みたいに高い志があるわけじゃない」

「…………………」

「人を撃つのはこんなにも容易い。…たぶんあの人、もう歩けないと思います。だけどっ、後悔は、して、ないんですっ」



涙が両目から溢れてくる。
なにが悲しいのかなんて、わからない。
涙が、冷たい。


堂上教官は黙って私の頭を、教官の肩に押し付けてくれた。

そんなことされたら余計止まらなくなる。
空が、蒼すぎるのがいけないんだ。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -