………………………………………………、ねれない。



何回寝がえりをうってもどうしても夢の世界に行けない。
身体は訓練のおかげで疲れているのに、なんだか頭が冴えて眠れない。

こうなったら自棄だ。
こういうときは、経験上もう寝ない方がいい。…次の日めちゃくちゃ辛いけど。


…少し夜風に当たりにいこう。





外に出てみると、東京じゃ絶対にお目にかかれない満天の星空が広がってて、思わず見入る。


「つき、おおきい」


言葉が口から零れる。
なんだか気持ち良くなってきて、夏の虫達の唄を聞きながら、私も唄う。
なんて素敵な夜なんだろう。
こんな夜があるから、あんなことがあってもまだ生きていられる。
こんな夜に出会うために私はきっと生きている。




ぱき、

後ろからなにかが土を踏みしめる音がして驚いて振り向くと、手塚くんが立っていた。
そして、咄嗟に謝る。



「ごめん、うるさかったね」

「あ、いや、…違う」



返ってきたのは、予想外の返答で、ゆっくり瞬きをしてしまう。
てっきりいつも通りのむっすりした態度で返事をするのかと思ったけど、なんだか今夜の手塚くんは柔らかい雰囲気をまとっている。



「………………」

「………………………、」

「………手塚くん、どうしたの?」

「え?」

「あ、いや、こんな時間に外に、なにしに来たのかな、と思って」



訪れた沈黙が窮屈で、というか少し気まずくて声をかけると手塚くんは少し戸惑ったような反応をよこした。



「ちょっと、外でも行こうかな、と思って…」


そうしたらおまえが見えたから、と言ってやっぱり少し気まずそうな顔をする。


どうしよう、私が場所変えた方がいいかな。絶対そうだよね。うん、そうだ。


「じゃあ、わたし、」

「おまえさ、あんなライフルどうやって使ったんだよ」



立ち去ろうとしたら不意に投げかけられた質問に、足を止める。
ライフル?昼間の話、かな?



「どうって…?」

「だから、おまえの短い腕じゃ持ちあますだろ?」



少し横柄になった口調にむっとする。
たぶん無意識なんだろうけど、いい気はしない。


「…私、昔から手癖が悪いっていうか、なんていうか抜け道見つけるのが上手いっていうか、…だから本当はリーチ足りてなかったんだけど、それはあれの癖だと思って、使ったんだよ」



ちょっと腹がたったけど、そんなことはおくびにも出さないで説明する。
正直言葉で説明できない感覚的なことだから、説明が難しい。


手塚くんもよくわからなかったみたいで、ちょっと複雑な顔をしている。


「…あのさ、私のことさ、へんな奴、って思ってる?」


手塚くんも黙っちゃって、他に喋ることも見当たらなかったから思っていたことを聞いてみると、手塚くんは一瞬返答に迷って、それから微かに頷いて、口を開いた。


「あぁ、……そう、思ってた」

「思って、た?」


過去形?と聞き返すとまた頷きが返ってくる。



「いまは、そうでもないよ。…まぁ、出身不明の奴とは思ってるけど」

「ははっ、みんな学校とか気にし過ぎだよ」



なんだかもう言われ慣れすぎた台詞に笑ってしまう。
別に隠してる、とかじゃないけど、ただちょっと言いたくないだけなのに。



「ちゃんと一応大学は出てるから、安心してね。」


大学行ってるか行ってないかで人を判断するのも変だとは思うけど、これが日本の文化なんだから仕方ない。
こういうと人が安心するのを知ってるから、あえてストレートに言う。



「そうなんだ」


小さくつぶやいて、なにか満足したのか、手塚くんはまた頷いた。



「…俺、そろそろ戻る。………Victoriaも、早く戻って寝ろよ。」

「あ、うん。わかった」



踵を返して、建物に入っていく手塚くんの背中に、呼びかける。


「手塚くん、!」


うるさくならないように声をひそめて呼んだら、振り返ってくれた。



「わたしのこと、Bellって呼んでね。こっちのほうがしっくりくる!」



お互いたったひとりの同期なんだから、仲良くしよう!そう、麻子の忠告を思い出して言うと、手塚くんは微かに笑ってくれた。


「俺のことも好きに呼んでいいから。…じゃあな、Bell」



今度こそ遠くなっていく背中を見て、すこし心があたたかくなった。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -