蒼すぎる空に突き抜ける春の風は、まだ少し肌に寒い。
だけど厚い布で作られた制服に身を包みながら、外をひたすら走りまわっていれば、その風も心地よく感じる。


「ラスト10周!」


堂上教官の声が響き渡り、それを聞いてペースを上げる周りの男たち。
この人達にとってはあとたった10周、だろうけど私にとってはあと10周も、だ。

昔から持久走が大の苦手で学生時代はずっとさぼってたツケがこんなところにきてまわってくるなんて、世の中うまくできてる。


どんどん追い抜かされて、みんなの背中がたくさん見える。


「あと5周だ!へばるなVictoria!」
「っ、はい!」


鋭い声に名前を呼ばれて、上がっていた顎を無理矢理戻して前を見る。

負けたくない。負けられない…!



「くっそ、…!」


既に鉛のように重い足を、無理矢理動かして前へ前へ進む。



ゴールした後、そのまま下を向いて先にゴールしたみんなの後ろに並ぶ。
後ろに何人もいるけど、前にも何人もいる。

前の人の背中を眺めた後、上を見上げる。


あぁ、まだこんなにも空は遠い。

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