玄田隊長から電話を受けた時、一気に体中の血の気が引くのがわかった。


「おまえのとこのお嬢ちゃんがなにやら血相変えて良化隊のところへ向かった!とにかく急いで来てくれ!」


電話を切って、付いてきた小牧と現場に向かう途中、思い出したのはVictoriaと初めて会った日の事。

女子にして第一希望が防衛部、そして何より彼女の履歴書が不可解で、Victoriaの面接には特例によって新入隊員の上官全員が同席した。
そしてもちろんそこには堂上も座っていた。


履歴は中学までしか見当たらないのにも関わらず試験はトップ集団を肩を並べ、司書資格ももちろん持っている不思議な女だった。

淡々と面接官の質問に答えていた彼女だっかが、最後に志望動機を聞かれた時だけ瞳に妙な光を滾らせて、答えたのだ。


「良化特務機関の存在が許せません。守りたいんです。でもその力を持っているのは図書隊だけです。私は、守りたいんです」


ただ守りたい、と繰り返すだけで主語を除いたひどく輪郭のぼやけた回答だった。
だけどそう答える彼女からはほとんど切羽詰まったような気迫が感じられて、面接官はそれ以上なにも聞けなかった。



彼女はなにを守りたがっているのか。
なにがそんなに良化隊への敵意を生んだのか。





「弱者を退けて、なにが正義だ!そんな正義捨てちまえ!!」

問題の書店に息を切らせて着いた時、Victoriaが叫ぶのが聞こえた。
そしてその後に聞こえる良化隊であろう男の声。

「弱い者にはそいつ自身に責任がある。そいつがなにをされようと、対抗できなかったそいつの責任だろう!」



あまりにも自分本位な発言に、つい怒鳴りこみそうになったけど、その前にぶち切れた奴がいた。


「おまえらっ、ふざけんなっ…!」


ほとんど悲痛に聞こえるほどの声で言ったVictoriaが右手を振りあげた、と思った時にはもう飛びだして、小さな身体を閉じ込めていた。


訳が分からず抵抗するVictoriaの耳元で、言葉を紡ぐ。
とにかく、どうしてでもいいからこいつを守りたかった。



「落ち着けBell、大丈夫だ。俺がいる」


咄嗟に出たのはそんな安っぽい台詞。
名前で呼んでしまったのも、無意識だった。
気休めにしか聞こえないかもしれないけど、この時俺は本当にそう思った。


俺の言葉が聞こえたのか、大人しく動きを止めたVictoriaの身体を左手で包み込みながら、右手で身分証を出して、声を張り上げた。





「こちは関東図書隊だ!これらの本は図書館法第三十条に基づく資料収集権限を以て、図書館法執行令に定めるところの見計らい図書とすることを宣言する!」




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