「やめて、返してよ!」

「だめだ!」

「お願い、返してよ!!」



書店に着くと、そこには高く振りかざされた本に手を伸ばす子供と、子供を邪魔そうに見ている、良化特殊隊員。


その制服を目にした瞬間、自分の血が凍るのがわかった。
身体の温度がすっと抜けて行って、身体が軽くなる。



「おい、おまえ、なにをする!」



ほとんど無意識に近い動きで、良化隊員が持っていた本を、気づいたら取り返していた。



「あなた達こそ、なにをやってるんですか」

「我々はメディア良化法に基づき、検閲を行っている!」

「子供から絵本を取り上げておいて、なにが検閲ですか。それは青少年を守るためという大義名分の下制定された法律でしょう?こんな小さな子供を悲しませてまで発動する理由がどこにあるんです」



冷静な自分に、正直言って驚いた。

もし良化特務隊に会ったら、我を忘れて襲いかかっちゃうかと正直思っていた。
それほどドス黒い感情がお腹の中で蠢いているけど、表に出てくるのは氷で固めたような沈着な行動で、自分でびっくりする。



「うるさい!そんな戯言を聞く時間はないんだ!その本を渡せ!」

「嫌だ、と言ったら?」

「っ、いい加減にしろよ!」



起こって顔を真っ赤にしている良化隊を無視して、半分泣きそうな子供に本を渡す。



「これ、買ってきな」

「え、?」

「本を読むことが悪いことだなんてことは絶対ないから。知らなくていい事なんて、無いんだよ」



子供の頭を撫でながらそう言うと、それを見ていた良化隊が怒り狂った。


「ふざけるな!その本をよこせ!」


どん、
良化隊の男が子供を突き飛ばして、本をまた奪い取る。
その拍子に泣きだした子供を見て、私の中のなにかが、切れた。



「っざけんなよ…」

「なんだ?」


軋んで音を上げるほど、歯を噛みしめた。
そうでもしないとめちゃくちゃに暴れそうだった。


「弱者を退けて、なにが正義だ!そんな正義捨てちまえ!!」

「弱い者にはそいつ自身に責任がある。そいつがなにをされようと、対抗できなかったそいつの責任だろう!」



唾と共に吐き出された台詞に、今度こそ自分のたかが外れたのが分かった。

こいつは、あの日、抵抗できなかった私達が、あの子が悪いって言ってるのか?
こいつは、あの良化隊の男が正義だと、言っているのか?


自分の頬に熱いものが流れた気がした。
だけど、そんなことはどうでもいい。



「おまえらっ、ふざけんなっ…!」


殴りかかろう、と右手を重いっきり引いた時、後ろから誰かに羽交い絞めにされる。
もうなにがなんだか分からなくて、無茶苦茶に暴れていた私の脳によく聞きなれた声が響いて、身体から力が抜けるのが分かった。


「落ち着けBell、大丈夫だ。俺がいる」


どこまでも優しく響く声に身体が、心が楽になる。

この人は、なにも知らないくせに。
大丈夫だ、なんて気休めの言葉、他の誰かに言われたら尚更怒り狂って逆上する言葉だけど、この人に言われると本当に大丈夫な気がするから、不思議だ。


「どうじょう、教官」


情けない声を出した私を支えながら、彼は高らかに宣言した



「こちは関東図書隊だ!これらの本は図書館法第三十条に基づく資料収集権限を以て、図書館法執行令に定めるところの見計らい図書とすることを宣言する!」



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