堂上教官が私の腕に包帯まで巻いてくれて、しばらく部屋には静寂が訪れたけど、堂上教官がそれを破った。
「なぁ、…聞いても、いいか?」
「、なんですか?」
教官にしては控えめな物言いに、少し、身構えながら言うと、堂上教官は少し考える素振りをしてから、また口を開く
「おまえのスピードなら、あの男の確保は難しいことじゃなかっただろ」
「………」
「…どうして、反応できなかった?」
静かに問う教官に、答えられなかった。
だって、本当は反応していたから。
自分でも嫌になるくらい、あの男に反応していた。
だけど、そのせいで動けなかった。
「動けま、せんでした」
この前、教官に”男が嫌いか”と聞かれたときに、少し、嘘をついた。
あの時は嫌いじゃないって言ったけど、心のどこかで嫌ってるし、恨んでいる。
でもそれは全部の男の人に対してじゃ、ない。
「………なにかあるなら、いってくれ。俺はおまえの、上官だからな」
優しくそう言ってから堂上教官は、またなにか起こったときに対処できるかもしれないだろう、と言葉を続けた。
ずるい、
そんな、上官を持ちだされたらそれは立派な理由になっちゃうじゃんか。
堂上教官は、こういう時本当にずるい。だけど、そのずるさを心の奥で望んでる私が一番ずるい甘えたなんだろうな。
手で拳を握って、震えた息を吐き出す。
会議室の中には私の呼吸と堂上教官のそれしか聞こえない。
「…、むかし、少し、…………嫌なことが、ありました」
途切れ途切れな私の言葉を、堂上教官は黙って聞いていてくれる。
「それで、男の人のことがちょっと苦手になって、女の子を守りたいと思うようになりました」
深く、息をつく。
視線を上にあげれば、まっすぐ私を見ている教官のとぶつかった。
「いま、言えるのは、ここまでです…」
その真っすぐな瞳を見ていられなくて、また視線を落とせば、堂上教官が静かに息を吐き出す音が聞こえた。
「わかった。話してくれてありがとう」
不意に聞こえた優しい声が信じられなくて、思わず顔を上げる。
あんな迷惑をかけといてあやふやな抽象的な説明しかできなくて、怒られるかと思ってたのは、返ってきたのは、予想外の感謝の言葉。
そんな言葉をもらう資格は私にはない。
それなのに、それがすごく嬉しいのは、教官が優しすぎるせいだ。
「私にも、治療させてください」
黙ってじっとしていてたら熱くなった涙が溢れてきそうだったから、咄嗟にそう言った。
「は、?」
きょとんとしてる教官を無視して、救急箱の中から冷えぴたを取り出して、小さく切る。
とにかくなにかしてないと、本当に泣きそうで、やばい。
「私のせいで、怪我させて、ごめんなさい」
「あ、あぁ…」
未だに私の突飛な行動について来れてないのか少し茫然としている教官に謝る。
それと、もうひとつ、言わなきゃいけないこと。
「…でも、………ありがとう、ございました」
教官の赤く腫れた頬に冷えぴたを貼りながらそう言うと、教官は何も言わずに私の頭をなでてくれた。