Victoriaを会議室に残して、あいつの腕を手当てするために救急箱を取りに行った。
本当は会議室に来る途中で持ってくれば良かったが、そこまで気が回らなかった。たぶん自分で思っている以上に気が動転していたんだろう。
Victoriaがあの男と向き合ったとき、空気が固まるのを感じた。
男の動きはお世辞にも訓練されている俺達に比べて速いとは言えなくて、Victoriaの実力は先日の柔道で知っていたから大丈夫だろう、と思った。だけど空気が固まったのと同時にVictoriaの動きも固まって、気づいたら叫んでいた。
直後に見えたVictoriaの白い肌を犯す赤に惹きつけられたかのようにVictoriaを抱きかかえて、直後感じた脳が微かに揺れる不快な感覚。
いまも少し頬骨が痛むけど、いまはとりあえずVictoriaの手当てが先だ。
会議室に入って、見えたのは自分を守るかのように抱きしめているVictoriaの姿。
小さな身体を小さな、血の流れている腕で抱きかかえている姿は、ただ必死になにかに怯えていた。
「おい、…大丈夫か?」
自分でも少し焦った声が出たのが分かった。
声をかけるだけじゃ足りなくて、小刻みに震える頭に手を置くと、ゆっくり上がる顔と、止まる振動。
「きょう、かん」
縋る様に見上げられて、心臓が跳ねたのがかった。
それを悟られないように、意味もなく頭に置いた手を動かす
「どうしたんだ?俺がいない間になにかあったのか?」
「い、え…」
尋ねても、いまだに少し怯えた目で見られて、それ以上聞けなかった。
「…腕、出してみろ」
取り繕うように救急箱を開けて、Victoriaの腕を取る
白い腕に一本入った赤い線は、うっかりしていたら見惚れるほど綺麗で、それをごまかすように消毒液をかけた。
「っ、」
Victoriaの微かなうめき声が聞こえて、それにまた心臓を跳ねさせたのに気づいて焦る。変態か、俺は。
絆創膏を貼って、その上から包帯を巻く。
「…大げさじゃないですか?」
「いいんだ」
訝しげに聞いてきたVictoriaに少しきつく答える。
本来必要無いはずの包帯を巻いたのは、Victoriaの怪我を隠すためか、それとも少しでも長くこの腕に触れているための口実なのか、自分でも分からなかった。