すぐ近くの会議室に入るまで、堂上教官は私に壁側を歩かせて、ずっと左側を歩いてくれた。まるで、右腕を隠すかのように。


無人の会議室はただ広くて、小さな音が大きく響く。

部屋に入ってすぐの椅子に座らせられて、また右腕を取られる。


「……………」

「………、」


傷は少し塞ぎかかっている。
すごく浅い傷だったけど、少し血が垂れていた。



「待ってろ」


また簡潔な言葉で命令されて、それにただ従うしかない。
なんだかいつもの堂上教官と違っていて、ものすごく怒ってるのがわかる。



ドアが閉まって、教官が会議室から出て行って久しぶりに呼吸ができた気がした。

1人広い会議室に残されて、さっきの記憶が鮮やかに蘇る。
刃物を向けてきた男、なにも出来ずにただ突っ立ていた私、助けてくれた、教官。

今更のように震えが来る。
恐怖と、己への怒り。

私はあの日から必死に自分を鍛えてきたはずなのに、結局はなにも変わっていなくて、なにもできない無力な私のままだ。
情けない。
だけど、またあの男の瞳を思い出して身体の震えが止まらない。
ぎらぎら光る瞳には確かに私に向けられて殺意があった。怖い。



「おい、…大丈夫か?」


自分の身体を包み込むように抱きながら震えに耐えていると、頭に乗る微かな重みが私の震えを止めた。



「きょう、かん」


喉がからからに乾いて、掠れた声で呼ぶと、教官の手がやさしく頭を滑る


「どうしたんだ?俺がいない間になにかあったのか?」

「い、え…」


堂上教官はゆっくりと何回か私の頭を往復した手をゆっくり降ろして、いま持ってきたのか、机の上に置かれた救急箱を開けた。



「…腕、出してみろ」


言われてゆっくりと右腕を出す。


「っ、」


したたかにかけられた消毒液が、染みた。
少し腕をひっこめようとしたけれど、しっかり私の腕を握った堂上教官の手がそれを許してはくれない。


てきぱきと消毒を終えて、大きな絆創膏を貼られる。そしてその上から包帯。


「…大げさじゃないですか?」

「いいんだ」


やっとまともに機能するようになった声帯を震わせて聞けば、ぴしゃりと跳ね返される。

するすると包帯の擦れる音だけが部屋に響いていた。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -