「腕、大丈夫?」
「へ?」
コーヒーを片手に持って来て、私の隣に腰を下ろした小牧教官が投げた言葉は唐突すぎて反応できなかった。
なんでこの人が知ってるんだ。
「え、と、大丈夫、です…けど」
「堂上にやられたんだって?」
「おまえは人聞きの悪いことを言うな!」
なにもオブラートに隠そうとしない小牧教官に、堂上教官が立ちあがって抗議する。
教官の前にあるお皿はもう空だ。
しまった、合わせて速く食べるんだった。
「いえ、腕は堂上教官は関係ないんですよ」
「ふーん?」
一応フォローを入れると、小牧教官はまったく読めない笑い方をした。
何だこの人。本当は絶対いじわるそう。
私の言葉に一応納得した様子の小牧教官が、今日の訓練の話を堂上教官とし始めたから、速く食べちゃおう、と手を動かしていると軽い足音が聞こえてきたと同時に名前を呼ばれた。
「Bell、こんなとこにいたのね。部屋戻ってこないからどこ行ったのかと思った」
「麻子」
少しほっとした顔をしてる麻子を見て、メールでも入れればよかったとちょっと反省。
でも麻子は堂上教官の存在を確認すると、そんな表情をすぐ消して、可愛い笑顔を浮かべた。
さっさとデザートメニューにあったティラミスを買ってくると、あたりまえのように堂上教官の隣に腰を下ろした。
それをぼーっとグラタンを食べながら見ていると、斜め前から興味津々な瞳が覗きこんできた
「どっかですねてるのかと思ったわよ」
「!」
なんで小牧教官といい、麻子といい、みんな知ってるんだ。
恥ずかしい…!
思わず声を詰まらせると、気まずいのは堂上教官も同じなのか、コーヒーを飲んでいた眉間に皺を寄せた。
それを微かに感じ取ったのか、麻子は話の方向性を変えた。
「男を何人も投げ飛ばしたんだって?あんた本当に女?」
話題の方向性は変えたけど、話題自体は変えるつもりはないらしい。
「何人もじゃないよ、」
そう言いかけてある事にふと気づく
「まただ」
「え?」
「また7、だ」
私の言ったことが分からないのか、麻子も隣の小牧教官も、堂上教官も口を噤んで私を見ている。
「だから、また7なんですよ。言ったじゃないですか7は嫌いだって」
「…数字の話?」
「7は2で割った時だけ綺麗だけど、それ以外は本当に嫌い」
「3.5が綺麗なの?」
「3と5だよ!一番綺麗な組み合わせじゃん。足したら8でしょ?まぁ8自体はそこまで好きなわけじゃないけど、2掛ける2掛ける2だよ?2が3つっていうのが実に潔いよね。そんで足したら5でしょ?ループじゃん!すごい!」
「なにが?」
私の話に終始疑問を挟んできた麻子だったけど、それも横から聞こえてきた笑い声に消される。
「あーもう本当面白いよね、Victoriaさん!」
もーだめ、と言って机に伏せて笑い始めた小牧教官を驚いて見ていると、堂上教官が口を開いた。
「おまえ、少し変わってるって言われないか」
「言われません、!」
なんなんだ!上官のくせになんて失礼な!
「いや少しじゃないですよ!相当、変ですってば!」
教官に文句の一つでも言ってやろうとしたら、麻子がさらに失礼なことを言いだしたから、口を噤んだ。
もう、なにも言うまい。
「それにしても数字好きだよね」
少し私が拗ねたのが分かったのか笑うのをやめて小牧教官が声をかけてきた。
それにゆっくり頷いて応じる。
「でもBellの学歴、中学までしか見つからないんだけどどういうこと?」
「、麻子…!」
こいつ、いろいろな情報を集めていたのは知ってたけど、まさか私のことまで調べてたなんて、なんて奴。怖い。
堂上教官と小牧教官も少し驚いた様子なのが分かる。
「まさか中卒ってわけでもないでしょ?」
何も気にせずに言葉を重ねる麻子に対して呆れた声が出たのは仕方ない。
「私のこと調べたわけ?」
「あたりまえじゃない。同じ部屋を共有する奴が変な奴だったら嫌だもの」
けろりと言ってのけた麻子に、脱帽する。
こうも堂々と言われるともうどうでもよくなる。