「…右手、前から痛めてたのか?」
Victoriaの腕全体に湿布を貼りながら聞く。
まず肘に二枚張って、それから筋にそって何枚か貼って行く。
「すこし」
小さく聞こえた返事の続きを待つがそれ以上言うつもりはないらしい。
口を噤んでじっとしたまま動かない。
仕方ないから俺も湿布を貼るのに集中する。
Victoriaの腕を支えながら湿布を貼るのは、思っていたよりも簡単だった。
まず腕が軽い、というのもあるだろう。
投げた時も思ったけど、腕だけとってもやっぱり軽い。
そして、細い。
少し強く握ったら簡単に折れるんじゃないか、と不安になるくらい。
こんな細い腕で大の男を何人も投げたなんて信じられないが、それに見合う努力があったんだろう。
月が出始めて、虫の声が微かに聞こえる。
そんな静寂に背中を押されて、言葉が喉から零れた。
「男が、嫌いか?」
静かに出た俺の声に、Victoriaが微かに身体を揺らしたけど、それには気づかないふりをする。
本当は嫌いか、じゃなく、怖いか、と聞きたかった。
俺が最初に畳に落とした時の、あの反応。
まるで咄嗟に次の攻撃を仕掛けるかのようなあの動き方に違和感を覚えた。
なんだったんだ、あれは。
こいつはなにに対してあんなに警戒していた?
「………いえ」
小さく、でもはっきりと届いた否定に、俺はまた質問をぶつける。
「じゃあ、なんで女に負けるのに、男には勝つんだ?」
わざと女に負けていたのは分かった。だけど、なぜなのかが分からなかった。
「…、男の人が嫌いなんじゃなくて、女の子が大切なんです」
大切…?
こいつはなにを言ってるんだ…
「女の子は守るべき対象であって、傷つける対象じゃない。」
守るべき対象、?
男が女に対してそう感じるのは分かるが、女のVictoriaが同姓の女に対してそれを思う意味が分からない。
「大切、って、おまえも女だろう」
「私はいいんです」
俺の言葉に被せる勢いで、Victoriaが反論してきた。
こんなに熱く言葉をぶつけるVictoriaにびっくりしていると、Victoriaがもう一度呟いた。
「わたしは、いいんです」