ドン、
「もう一回、お願いします」
ドス、
「っ、…もう一回お願いします」
もう、何回目になっただろうか。
何度倒しても倒してもVictoriaは起き上がってきて、鋭い眼差しを俺に向ける。
「もう一回お願いします!!」
なにかにとり憑かれたように必死になって俺に挑んでくる姿はいままで見た事のないくらい気迫めいていて、つい、俺もむきになった。
どんなに投げてもきりがないような錯覚を覚えて、今まで加減していたのを忘れて咄嗟に腕を取る。
微かに驚いた顔を見せたVictoriaの右腕をそのまま掴んで、筋を極める。
これでこの強気なVictoriaがどう出るか、と見てみると、意外なことに本気で困った顔をして、悲痛な声を上げた。
「右腕だけは、やめ、…!」
言いかけて、自分がなにを言ったのか理解したかのように咄嗟に顔をそむけて口を噤んだ。
そんなVictoriaを見て、俺も自分が何をしていたのか気づいて、急いで手を放す。
馬鹿か俺は。女子相手になにやってんだ。
「……、今日はここまでだ」
俺とVictoriaのやりとりをずっと見ていた隊員に向かって、もう一度終了の合図を出す。
すると今まで興味津々に見ていた奴らも、しかたなく道場から今度こそ出て行った。
後ろを振り返ると、まだ畳に倒れたままのVictoria。
「…悪かった」
「……………」
…、無視か。
Victoriaは右腕をそのまま畳にあずけ、左手で顔の半分を覆っていて表情が窺えない。
「、痛めたか?」
心配して聴くと、ふるふるとVictoriaが首を左右に振った。
だけど手を動かそうとはしないし、声を出そうともしない。
「おまえも早く着替えて飯食いにいけよ」
「……………………」
これ以上なにを言っても無駄だろうから仕方なく放って道場を出る。
道場を出る間際に見えたのは、やっぱりまだ横たわったままのVictoriaだった。