普段はめったに人が来ない避難階段の踊り場で何を考えるでもなくただ涙を流していると後ろから足音が聞こえて身体が強ばる。
今日は図書館は休館日だから、こんなところにこんなタイミングで来る人は、一人しかいない。



「…Victoria」

「…………どうしたんですか、堂上教官」



振り向かずに言うと、また近づいてくる気配。あぁ、ほんと、おせっかいなんだから。無駄にタイミングがいい。いや、悪いのか。



「ちょっと緊張が解けて気が緩んでいるので一人にしていただければ嬉しいです」

「……感情的に、なりすぎだ。おまえならもっとうまくやれただろ」

「そうかも、しれませんね。…でも、あそこで“うまく”やったら、私は私じゃなくなる」



一見矛盾しているような私の言葉の意味を悟ったのか、後ろで息をのむ音がする。
私の本意がわかってても、ここから立ち去る気はないみたいだ。あぁ、こんな涙でぐちゃぐちゃの顔見られたくないのに。



「Bell、おまえが“あくま”になる必要は、ない」

「なに、言って、」

「おまえが犠牲になんて、なんなくていいんだ」

「犠牲とか、そんなんじゃ、!」



不意をつかれて思わず振り向けば、私の涙を見て堂上教官は一瞬表情を固めたけど予想はしてたのかすぐやわらかい顔になる。



「私は、私はどんなに頑張ってもあの“あくま”にはなれない。だって、彼女の痛みを食べちゃうことなんて、出来ない。不可能だ。…だから、私は“悪魔”になるんです」

「そんなこと、おまえの友達は望んでいるのか」

「彼女は関係ない!望んでいるとか、望んでいないとか、関係ないんです。私の自己満足だってこともわかってる。…だけど、それでも、私はもう止まれない」

「止まらなくてもいい。だが、俺はおまえが傷つくところを見たくない。自分を犠牲に、するな」

「!!」



気がついたら強引に抱きしめられてて、身動きが取れなくなる。
力は強いのに、優しい。痛くないのに、振りほどけない。
あぁ、なんでこの人は来て欲しい時に来てくれて、欲しい言葉をくれて、して欲しいことをしてくれるんだろう。私の思考でも読めるのかな。敵わないや。


堂上教官の腕の中は心地よすぎて、自分から抜けることなんてできなかった。
だから私はせめて声を殺して、泣く。
泣いてることなんてバレバレなんだろうけど、それでも声を上げてなくのは恥ずかしい。

辛いよ、つらいよ。
でも、この人がいてくれてよかった。
この人がいてくれたから、私はまた前を向ける。


私のこわれたこの腕じゃ、守りきれないかもしれない。無力かもしれない。
だけど貴方の腕の中、私はどこまでも強くなれる。


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