「確かに、“悪魔”は優しくないかもしれない。だけどそれは皆さんの考え方次第だと、思います。……優しい悪魔がいたって、いいんですよ」


Bellの朗読は子供達には酷く曖昧すぎる言葉からのスタートだった。
子供達の顔にはまったく分からない、とはっきり書いてあって、それを見てBellは微かに笑った。


やさしいあくま。
幼児向けの本を全て読んでいるわけじゃないから読んだことはなかったけど、いい本だな、と素直に思った。

要するに自分の身を挺して友達の信用を回復し、家族を病気から救う感動物だ。

だけど、Bellにとってはそんな平べったい話じゃないらしい。

悪魔がおばあさんの病気の根源である枯れたカブのような塊を飲み込んだシーンで、異変が起こった。
いや、異変は最初から起きてたのかもしれない。
いくらBellが子供が苦手だからといって、あんな大人でも返答に困るような事を子供に言うような奴じゃない。
始まった時から感じていた違和感がはっきりとした物になったのは、Bellの両目から涙が流れ落ちた時だった。
審査員だけじゃなく小牧と手塚もそろってぎょっとしたのがすぐ分かった。止めようかとも思ったみたいだけどBellは自分の涙を一切無視して本を読むのをやめないし子供たちも不思議と騒ぐことなくじっと聞き入ってる。
数人が釣られて泣き出したけどそれも騒ぐような泣き方じゃなく、子供のくせに大人みたいにただ静かに涙を流している。



「…ふたりで遊んだその山に、悪魔と同じ色の赤い花が柔らかい風に包まれて気持ち良さそうにしていました。………おしまい、です」




Bellが本を静かに畳むと、ぽつりぽつりと子供たちが話し出す。こんな奇妙な子供たちの反応ははじめて見る。



「自分の中の、大切な人の、なにを優先させるか、という事なんでしょうね」

「わかんないよ〜」

「いまは、いいんです。わからなくても、それでいいんです。だけど、やさしい悪魔がいたってことだけは覚えておいてあげてください」


そこまで聞いて、ハッとする。
自分の中の大切な人。何を優先させるか。

やさしい悪魔は、Bellだ。


Bellはなにを犠牲にしても友人を傷つけた良化隊の人間を許さない。たとえどんな毒を自分が飲むことになろうとも、そんなの全然関係ないんだ。願わくば、この悪魔のように自分の散った後に花を残せれば。
Bellそのものじゃないか。


こいつがなんで試験前にどの絵本を読むか明かさなかったのかもようやく分かった。それは自分の心の中をすべて見せるのと同じだからだ。だけどそうと分かってBellはこの本を子供たちに読み聞かせようと決めた。器用な奴だから他にもやろうとしたらなにか手はあったはずなのに、あえて自分で一番辛い道を選ぶ。そういう、奴なんだ。

どんなに辛く、恥ずかしかったか。俺には想像もつかない。自分の弱い部分を全てさらけ出した捨て身の朗読会が終わるとBellは足早に部屋を出ていく。

誰もがあいつの空気に飲まれて動けないでいるうちに、俺も部屋を出てBellの後を追う。
いま、あいつを一人にさせてちゃいけない。
きっと、心全部で泣いているから。


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