絵本の内容はいたってシンプルだ。
病気のおばあさんと暮らしている男の子がある日山に薬草を摘みに入って、迷子になったところで悪魔に出会う。彼らは友達になって、楽しい時間を共有する。男の子はおばあさんの病気が感染性だ、という理由で町から迫害を受けていてその悪魔ははじめての友達だった。悪魔はおばあさんの死期が近いのを悟ると、ある日男の子の留守中におばあさんの病気を食べた。その影響かおばあさんは気を失う。家に帰ってきた男の子は悪魔がおばあさんを殺した、と勘違いする。悪魔は病気を食べたせいか凶悪な姿に変身していて、暴れ、笑いながら、こう言った。「お前のばあさんの命は美味かったよ」。怒った男の子はちっぽけな棒切れを拾うと、友達であったはずの悪魔に殴りかかり、そして悪魔は退散していった。悪魔を退治した男の子はたちまち町の人気ものになって、受け入れられる。その後家に帰った男の子は元気な姿のおばあさんを見て、全てを悟って、言った。


「ごめんよ、君を信じてあげられなくて。でも本当の事が判ったんだ。いつまでも友達だろう?ねぇ、もう一度遊ぼうよ…」


自分の両頬が濡れているのが分かる。
私の涙にびっくりしたのか、それともお話の影響なのか、泣いている子供も少なくない。
審査員と上官達がびっくりした顔で私を見ているのが痛いほど分かる。泣き顔を晒すのは恥ずかしい。冷静さもくそもない、と不合格になるかもしれない。だけど、いま、私はこのお話を一人でも多くの人に読んで欲しいんだ。


「…ふたりで遊んだその山に、悪魔と同じ色の赤い花が柔らかい風に包まれて気持ち良さそうにしていました。………おしまい、です」

「悪魔さんは死んじゃったの…?」

「さぁ、どうでしょうね」

「どーして嘘ついたの?ちゃんと病気なおしてあげたんだよ、って言えばよかったのに!」

「自分の中の、大切な人の、なにを優先させるか、という事なんでしょうね」

「わかんないよ〜」

「いまは、いいんです。わからなくても、それでいいんです。だけど、やさしい悪魔がいたってことだけは覚えておいてあげてください」

「うん!私、覚えてる!」

「僕も!」


子供の約束ほど儚いものは無い。数日後、いや、数分後には綺麗に忘れられていてもなんの不思議もない。
だけど、私は私の出来ることだけやれたんだ。もう、満足だ。


立ち上がって子供たちに一礼して部屋を出る。
小さな拍手が散ってこそばゆいけど、歩くスピードは止めなかった。
いまはとにかく一人になりたい。心がちぎれそうで、痛いよ。


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