見事だ、としか言いようのない身のこなしだった。

自分よりも縦も横もでかい男をなんの抵抗もなく投げ捨てる。
相当訓練を積んできた、と一目でわかる動きだ。
なのに女子と組ませれば自分があえてやられに行く、その意味がわからない。

Victoriaが畳に沈めた男の人数が7人を数えた。もういいだろう。


「よし、もういい。…おまえ、おまえと組め」

「…はい」



声をかけると少し眉をひそめたけど、すぐにその表情も消すVictoriaと向き合う。


「始め!」


自分で号令をかけた後、ゆっくりVictoriaに向かっていく。



「っああ!」


声と共にVictoriaが俺の襟首を掴もうとしたけど、その前に肩を掴んで組み合う形に持っていく。

さっきまでの7人を見ていると、Victoriaは掴み合う前に倒す、という一瞬で終わらせる勝ち方をしていた。それはきっと女が男と戦う時の極意なんだろう。

だからもしそれを上回るスピードで組み合いに持って行ったらどうするのか、興味があった。


そして不意に感じる不自然さ。
………、柔らかい。


いままでやってきた柔道のイメージは、畳イコール固い、男イコール固い、と全てが固いものだった。
だけど組み合っているVictoriaから感じるのは、女性特有の柔らかさ。
本来筋肉が付くのに適していない身体はどんなハードな訓練を積んでも男みたいに固くはならないらしい。

俺を押してくる力も弱い。弱すぎる。
これじゃあまともに組み合ったらどの男にも勝てないだろう。

軽く倒して、終わりにするか、



ゆっくり、受け身の取りやすいようにVictoriaを畳に落としてやる。


小さな音がして、Victoriaが畳に着いた、と思った瞬間にはヤツは俊敏な動きで体勢を立て直して片膝を畳に付けた状態で俺のことをきつく睨んだ。
その瞳から、身体全体から放たれるヤスリのような鋭い殺気に一瞬咄嗟に身構えるが、それ以上なにかをするつもりはないようで、ただ俺の事を見ている。


このままVictoriaを見ていても仕方ないから隊員に号令をかける。
しまった、だいぶ時間が過ぎてたな。


「…今日の訓練終了!解散とする!」

「はい!」



ぞろぞろと隊員達が出ていく背中を見ながら、俺もそろそろ夕飯行くか、と考えていると、後ろから声が飛んできて、その声に俺だけじゃなく、道場から出ようとしていた奴らも完全に足を止め、振り返った。



「待ってください!」


野生動物を思わせる鋭すぎる視線を携えて。


「もう一回、…お願いします」



Victoriaが、俺の事を真っすぐ見据えていた。

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