昇任試験当日、一次試験が終わってみんな少しの緊張から開放されたのと次の試験に向けての緊張が高まってきてなんとも言えないテンションでいる中、麻子と手塚が寄ってきた。
「どーだった?一次試験の方は」
「うん、まぁ普通に普通だったかな」
正直な感想を口にすると隣で手塚も頷く。
特に驚くような問題も出ない、分りやすい試験だった。これに落ちたってことはまず無いでしょう。
「まぁそうね。…で、二次試験の準備はできてるの?」
「うーん、まぁ、ね」
「おまえ何の本にしたの」
「秘密。手塚は?」
「…イソップ物語」
“秘密”と言っておきながら聞いた私に少しムッとしながらも答えてくれる手塚はいい奴だと思う。
まぁどうせ試験当日になればバレるだろうし、もう少しだけ隠しておきたい。だって、恥ずかしい。
なんとなく私の心情を分かってる麻子は朗らかに笑いながら自分の話題に移してくれる。
「私は船ゆうれいよ。ふふふっ」
不吉に綺麗な笑みを浮かべる麻子の心の中には生意気で手に負えない子供たちがいるんだろう。不憫な子達だ。
「Bell、当日はちゃんと頼んだわよ」
「わかってるって」
麻子は普段図書館の物資を乱雑に扱う子供たちにお灸をすえるのが目的らしくて、お話のクライマックスで“アクシデントとして”照明を落とすのを頼まれた。
業務部も大変だなぁ。
しかしながら、やっぱり子供に本を読み聞かせるのは気が重い。しかもあの本だし。やっぱりもうちょっと無難なの選べばよかったかな。手塚は流石だ。自分のカラーにあった本をぴったり押さえてる。
でも今更本を変更するのもリスクが高いし、やっぱり腹をくくるしかない、よねぇ。
「はぁ」
「ため息なんてついちゃって。幸せが逃げるわよ〜?」
「二次試験から逃げられるなら一年分くらいの幸せは諦められる」
「それは俺も同感だ」
「まったく、二人して図書特殊部隊が情けないわね」
憂鬱な顔を並べる私と手塚とは違って麻子はなんだか楽しそうだ。
あーあ、早く終わらないかな、昇任試験。