なるほど、麻子に言われて少し周りに注意を向けてみればみんなの話題は昇任試験のことで持ちきりだった。
二次試験で使用する本の貸出はもう始まった後で、人気のキャラクター物や手堅い童話は全部売約済みらしい。
うわ、私完璧に出遅れてる。
どうしようかな。読み聞かせか…子供ってどのくらいのレベルの本を読むんだろう。
「Victoria、試験の対策は大丈夫なのか?」
「…うー、まぁ、はい」
「…本当に大丈夫か?」
休憩中に堂上教官に聞かれて、まさか昨日の夜までその存在を知らなかったなんて言えなくて歯切れ悪く答えると本当に心配そうに聞かれて更に言葉に詰まる。
一次試験は図書手帳の内容がわかってれば大体大丈夫みたいだから、心配はしてない。
心配してるのは、
「Victoriaさんは子供苦手だから手塚同様大変なのは二次試験になるよね」
「はい…」
私の思考を読んだかのように話に入ってきたのは相変わらず読めない笑みを浮かべてる小牧教官。
「そうだなぁ、おまえは女の癖に子供苦手だからな」
「男女差別ですか。可愛いモノが好きな男がいれば可愛いモノが嫌いな女もいるっていうのに」
「…スマン」
少しカチンときて堂上共感に言い返せば素直に謝られる。あぁ、こういう自分の非を自分より立場の下の人にもすぐ詫びられるのっていいなぁ。
「で?本はもう決めたの?」
「あー、はい、だいたい、」
「早く借りないと他の誰かに持ってかれちゃうよ?」
「そう、ですよね。行ってきます…」
この際休憩中に借りてきちゃおう。
本当はぎりぎりまで待ちたいっていうか出来ればあの本は見たくないんだけど、あれ以外知ってるこども向けの本も無いし、仕方ない…。
重い腰を上げて本を借りに行く私を心配そうに見ている堂上教官には気づいていたけど、知らないふりをする。
なんかこう、察しの良すぎる人も少し苦手だ。