「………しょうにんしけん?」
なにそれ、と首をかしげた私を麻子が心底呆れたように見てくる。
「あんた、しっかりしてるようでどっか抜けてるわよねぇ」
っていうかこの時期にこの話題をこの日まで避けて来れたって事に驚きだわ。と今度はしみじみ言われる。
麻子が言うには、あと一ヶ月くらいで昇任試験があって、それで上手くいけば私は士長になれるらしい。
そういえば前に堂上教官が試験資格がなんとか〜とか言ってた気がするけどよく覚えてないや。
今日麻子が手塚に二次試験対策を手伝ってくれって言われたらしくて、それを夕飯プラス呑み代で了承したらしい、という話だったけど、少しそれた。
「っていうか、手塚が麻子に助けを求める二次試験って…?」
どんな恐ろしい内容なんだ、と聞くともう呆れた事に疲れたのか淡々と教えてくれる。
「“子供への読み聞かせ”」
「!!」
よ、予想以上の恐ろしい内容だ。
子供への読み聞かせ、かぁ。どうしよう。すごく子供、苦手なんだよなぁ。
「あんたにとっても辛い内容よねぇ」
にやりと意地の悪い笑を向けられるけど、噛み付く気にもなれない。
「どうしようかなぁ。困ったな」
「手塚みたいに手伝ってあげようか?」
「うーん、まぁ一人でやってみるよ。それで受からなかったらそこまでだし」
「へぇ、潔いじゃない」
少し感心したように見られて、なんだかこそばゆい。
まぁたまたま学歴は一級品だけど元からそこまで階級とか気にならない質だし、給料もお金に困ってるわけじゃないから特に不満も無い。
でも、自分のできるだけの事はやってみようと、思う。
麻子は手塚の手伝いと自分の試験で忙しいだろうから頼るのは悪いしもし受からなかったら私が所詮それだけの人間だってだけだ。
「相談くらい乗るわよ?」
「うん、ありがとう。嬉しいよ」
意外と世話焼きな麻子は少し心配そうに言ってくれて心強い。
本当に困ったら迷わず相談しようと思える、信頼のできる人だ。
「それにしてもさっき麻子、合格率は約5割って言ってたけど、それは50%に近い40なのか、それとも60なのか気になるところだよね。そもそもこれは人数制限も無いからもし仮に全員合格ラインに達すれば全員合格もあるわけだし。そのへんは就職とかとは違うよね。あれは要するによりレベルの高い人たちが抜けていく方法である一定のラインに達したから合格するってものでも無いし、」
急に少しそれたことを話し始めた私を麻子はまた変なこと言い出した、って目で見てくるけどとりあえず話は聞いてくれるから優しいな。