事務室にVictoriaと戻って、班全員プラス柴崎でVictoriaに仕込ませた小型レコーダーから流れる査問の様子に、俺を含めた一同は苦笑していた。




『持った感じで、なにかわからなかったのか?』

『それは、御冗談でしょうか?』



「ここ最高だね」

「あぁ、大したタマだ」


終始Victoriaが査問会をやりこめているやりとりに、小牧が思わず吹き出し、それに玄田隊長が同意する。そしてその隣で手塚も黙ったまま頷いている。


査問の様子に特に緊迫した様子は無い。
査問を受ける時の鉄の掟、「必要以上に喋るな」というスタンスをVictoriaは見事に無視しているが、これで上手く行ったんだからいいだろう。それどころかそれによって上手にやりこめている。

なのに、それなのに穏やかな表情で査問の様子を聞く俺たちとは対照に、その本人であるVictoriaの表情は浮かない。
ずっと、なにかに怯えるように押し黙り、下を向いて誰とも目を合わそうとしない。


その理由がまったくわからなかったが、次の瞬間レコーダーから出てきた査問会の人間の声で合点がいった。



『………あなたの入隊時に提出された履歴書を拝見したところ、学歴が中学卒業で終わっていますね。…調べさせてもらいました』

「、!」



その瞬間、Victoriaの肩が微かに揺れたのを見た。
…これが原因か。


俺意外の奴らも気づいたのか、みんな口を閉ざしてレコーダーに聞き入る。

まさか査問会がこいつの素性を洗うなんて思ってもいなかったから、すこじびっくりはするが、一組織そして隊員の履歴を調べるのはたしかに自然な事だ。


だけど、そんな思いも、すぐに消えさる。



『君、中学卒業後にアメリカに行って、さらにはあの大学を卒業したらしいじゃないか』



そう言って出した大学名に、事務室の時間が止まる。

査問会が言った大学は、間違えようもなく、一般的に”世界一”と言われている大学。
日本一、ではなく世界一、だ。

あまりに沢山の情報が頭の中を占領して、上手くリアクションが取れない。
それは他の奴も同じようで、言葉を失ってただただ驚いてVictoriaの顔を見ている。


アメリカ?
中学卒業後、ということは高校から?
それにしてもこいつがあんな大学を出ていたなんて、



馬鹿みたいに驚きながらVictoriaを見ると、Victoriaはやっぱり少し俯いたまま、へたくそに笑う。



「…、私、ちょっと疲れちゃったみたいなんで、帰りますね」



お疲れ様でした、と静かに逃げるように事務室から出て行くVictoriaの後姿をやっぱり黙ったまま見送る。
たくさんのことが一気に起こりすぎて、誰も止めることなんてできなかった。


だけど俺達にはただレコーダーの吐き出すVictoriaの言葉を聞くことしかできなくて、また録音された機械の声に耳を傾ける。


『…、お言葉ですが。私の学歴をお知りになった時、どう思われましたか?』

『どう思った、というと?』

『………少しでも、嫉ましい気持ちは生まれませんでしたか?まったく?本当に0と言い切れますか?』



それを聞いて、ハッとさせられる。
学歴を誰に聞かれても頑なに言おうとしなかったVictoriaの、少し寂しそうな、顔。


『非常に残念ながら、多くの男性は自分より高学歴の女性を疎ましく思う傾向があります。男性だけというわけではありません。もちろん、女性もです』



きっとVictoriaはいままで学歴の事で妬まれたり、勝手に羨まれたりしてきて、その度嫌な思いをしてきたんだろう。
周りが勝手に囃したて、勝手に消えて行く。
人はそれを贅沢な悩みだ、と言うかもしれないが、苦しみは本人にしかわからない。



『非常に申し上げにくいのですが、恐らく私はこの図書隊の中で誰よりも高学歴でしょう。しかしそれをひけらかす気も、鼻にかける気も、それが偉いもは思っていません。ただ、事実なのはたしかです。そしてそれが事実な以上、私の事を妬む人が出てくることも事実です。妬みという感情は人間の負の感情だと私は思っています。妬んで、それで努力するならいいんです。だけどそれで腐る人間の方が残念ながら非常に多い』



その言葉通り、Victoriaからは稀に高学歴の人間がする人を見下したような態度や、自分の価値が高い、など思っているような言動は見受けられなかった。



『だから私は学歴をできる限り公開しませんでした』



そう静かに言い切ったVictoriaの言葉を最後に、査問会は終わった。


そしてもう一度Victoriaについて考えてみる。

たしかに、Victoriaの言った通り人は学歴を気にする。
もし俺がVictoriaBellという人間を本当の意味で知る前に、Victoriaの出身大学を知っていたら構えてしまったり、どう扱っていいのか考えてしまったりしたかもしれない。
だけど、そんなこと知らずに俺が接したVictoriaはただの普通の弱い女の子で、そしてそう思えたのはやっぱりVictoriaのバックグラウンド抜きでVictoriaと接しられたからだと思う。

だから、Victoriaの言っていたことは限りなく正しい。

だけど、
もうVictoriaという人間を理解している俺にとって、いや、俺だけじゃない。この部屋にいる全員にとって、いまVictoriaの出身大学を知ったからといってVictoriaに対してなにか負の感情を感じることはない。



レコーダーが再生を止めた後、皆で顔を見合す。
だけどその顔に見られたのはVictoriaに対する深い愛情だけで、誰からも妬みなんてものは見られない。
そして俺も安心する。

Victoriaは人の心を惹きつけて、離さない。

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