「所属と姓名を述べて下さい」

「図書特殊部隊所属、VictoriaBell一等図書士です」



入って来た者に意図的に威圧を与えるための部屋のセッティングだった。
だけど、私から言わせれば、まだ甘い。
私に任せてくれたらもっと、入って来た奴全員の肝を握りつぶすくらい威圧感を与える部屋にできるのに、なんてことを考えながら答える。




「あなたは原則派を支持していますか?」

「私はあまり派閥、というのを好まない性格なのでとくにどちらも意識したことはありません」



堂上教官と小牧教官と光が私に査問対策として模擬査問をしてくれて、私のどの回答も問題なかった。
変に他人の言葉を覚えて行くよりも、自分の言葉の方が矛盾も少なくすむし、緊張も少ない。
それに昔から私は面接が好きなんだ。口のうまさには少し自信がある。



「…しかし、以前一度良化隊と、一般書店で衝突しましたね?この行動は原則派寄りな行動だと思わないか?」


そう言われて、あの時の事を思い出す。
あぁ、やっぱり今思い出しても腹が立つ。



「私なら、あの時、相手が良化隊でなかったとしても同じ行動を取ったと思います。彼らは一般市民である子供を押しのけ、転ばせ、怪我をさせました。それを見て見ぬふりができるほど自分は無神経な人間じゃないと自負しています」



はっきりと言う私に、男は言葉を詰まらして、また他の男が私に質問を投げかける。



「貴方の上官の玄田三監は原則派である稲嶺司令の右腕ですし、その彼が指揮する図書特殊部隊は原則派的な思想に偏っているというのは周知の事実だ。君もその思想に教育されているということはないのかね?」

「そういった事実はまったくありません」

「それは君が意識していないだけじゃなく?」

「もしそうだとして、私が意識していないことにどうして私がお答えできましょう?」



また男が黙りこむ。
ちょろい。ちょろすぎる。

こういった質問では言いくるめられてしまう、と思ったのか、少し質問の傾向を変えてきた。



「メディア良化法についてどう思う?」

「反対です。もともとこの法律の制定は、表現の自由の域を大きく侵していると思います。日本は先進国としてこんな法律を掲げていて恥ずかしくないのか大変疑問に思っています。」

「……検閲については?」

「先に言った回答と同じですね。繰り返しましょうか?」

「…………結構だ」



私のペースに完全に乗せられているのに気付きだした男たちは、話の核心に迫ってきた。
これ以上無駄な事を聞いてもしょうがないと悟ったんだろう。



「砂川一士のことについて聞きます」

「はい」

「彼とは以前から交流はありましたか?」

「いいえ」

「しかし、君の名を隠蔽事件の共謀者として彼が出したのはそうしてだ?」

「まったくわかりません」

「…彼は倉庫で隠蔽図書を梱包し、それを他の倉庫に運ぶ時、君が協力したといっている。それと、彼の事を殴ったとも聞いているが、どうだね?これでも以前から交流が無かったと?」

「訂正させていただくと、彼の頬に蚊がいたのでそれを捕まえようとしたら手が彼の頬に当たってしまったんです」


こればっかりは少し無理があるけど、蚊がいなかったという証拠を証明することはほぼ不可能に近いだろう。



「彼の荷物を運んだのは事実です。しかし中身が隠蔽図書だったとは知りませんでした。手塚一士と一緒にいる時に、砂川一士にダンボールを運ぶのを手伝ってくれ、と頼まれました」

「ダンボールの中身を調べようとはしなかったのかね?」

「梱包作業は図書館で日常的に行われていることなので、別に調べようとはしませんでした」

「持った感じで、なにかわからなかったのか?」

「それは、御冗談でしょうか?」


むちゃくちゃな事を言うおじさんを口元に冷笑を湛えて見返すと、居心地悪そうに咳払いをして黙った。




「………あなたの入隊時に提出された履歴書を拝見したところ、学歴が中学卒業で終わっていますね。…調べさせてもらいました」



急に、思いもよらなかったところからの変化球が投げられて、返答に遅れる。
調べられた?嘘。



「図書隊員の素性を確認しておくのは管理部としてはごくあたりまえのことなのでね。君、中学卒業後にアメリカに行って、さらにはあの大学を卒業したらしいじゃないか」


そう言って述べられた学校名に背筋が伸びる。
まさか学歴を調べられるとは。まぁ別に隠してたわけじゃないけど、ちょっと迂闊だった。



「すごいじゃないか。どうして書類に書かなかった?」



挑発するように聞いて来る男の目を、深く息をついて見返す。
その言葉と目に込められて妬みと疎ましさを見逃すほど私は鈍くない。



「…、お言葉ですが。」

「…………………」

「私の学歴をお知りになった時、どう思われましたか?」

「どう思った、というと?」

「………少しでも、嫉ましい気持ちは生まれませんでしたか?まったく?本当に0と言い切れますか?」

「、………………」

「非常に残念ながら、多くの男性は自分より高学歴の女性を疎ましく思う傾向があります。男性だけというわけではありません。もちろん、女性もです」

「それはあなたの持論ではなく?」

「私の学歴をお調べになったのなら分かると思いますが、私は最高の教育を受けてきました。心理学的根拠に基づいて話しています」



そう言う私に、やっぱりなにも言えないらしい。
いつもこうだ。学歴を言うと構えられるから、嫌だ。



「非常に申し上げにくいのですが、恐らく私はこの図書隊の中で誰よりも高学歴でしょう。しかしそれをひけらかす気も、鼻にかける気も、それが偉いとは思っていません。ただ、事実なのはたしかです。」

「……………」

「そしてそれが事実な以上、私の事を妬む人が出てくることも事実です。妬みという感情は人間の負の感情だと私は思っています。妬んで、それで努力するならいいんです。だけどそれで腐る人間の方が残念ながら非常に多い。」

「そう、ですか」

「だから私は学歴をできる限り公開しませんでした。」

「わかりました…」



一気に喋りきって、一息ついた時、ドアがノックされて、堂上教官が入って来た。



「時間になりましたので、Victoria一士を常務に戻らせてもらいます。こい」


まっすぐ私の目を見て呼んでくれる、堂上教官の元にゆっくり歩いていく。

彼の表情はいつだって私に対してまっすぐでいてくれて、私もそれに対してまっすぐでいられる。

だけど、もしかしたらこんな関係も終わっちゃうのかもしれない。
査問会に行った時よりも不安を抱えながら、胸ポケットに入っているレコーダーを撫でる。

あぁ、やっちゃった。

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