1p(アロエは火傷にきくそうですよ)
床から落ち、鳥の背中で気絶し、井戸に入らせられ、泥にまみれた散々な日だった。
今日は何もなければいいのに。
事務所はススだらけじゃないし、
床に穴は空いてないし、
変な刃物は突き刺さってないし、
人が串刺しになってないし、
へんな団子頭もちょんまげも来ない、
自動車は突っ込んでこない、
そんな日があったっていいんじゃない?
事務所のドアを開ける時、全部を覚悟する。
**
「あれ?」
思わず声が上がる。
事務所の天井は木目もはっきり見えるし、窓もあるのかないのか分からない色。
床だって、綺麗に木が敷かれている。
そんな当たり前のことに声が出た。
何事だろうかと急ぎ足で奥へと向かう。
酒瓶は減ってないし、アイスクリームの減り方も変わらない。
何かが焼けた匂いもしなければ、薬のような匂いもしない。
預かっている金庫を開けても、減っていない。
冷蔵庫の中身も準備した分しか減ってない。
何かがおかしい。
絶対におかしい。
「普通なのがおかしい」
荷物を置いて、応接間の掃除をすべく箒と塵取りで武装した。
絶対に何か罠があるはずだ。
用心しながら応接間を覗き見る。
「あれ?」
それは、普通の店ではあってもおかしくないのだが、
ここにあることがおかしい。
だってここは普通の店でもない、普通の事務所でもない。
だから普通なんてものがおかしい。
これが一番の違和感だったのかもしれない。
箒を壁に立てかけ、
塵取りを置き、
用心しながらそれに近寄った。
不用心だったのかもしれない、
でも好奇心が勝った。
そんな時、玄関の扉が開き、心臓は飛び跳ねた。
「どうした? you」
背後から掛けられた声に、口から心臓が飛び出しそうだった。
「うわっ。はい! すいません」
面倒臭そうにデイダラさんは玄関のドアを閉め、サソリさんは興味もなさそうにソファへ座った。
腰が抜けたようにその場から動かない私に、横目で何事かと尋ねる。
無言でも命令されているのがわかるくらいに。
「あの、えとですね。
このアロエどうしたんですか?」
私の素朴な疑問にサソリさんは舌打ちし、デイダラさんは鼻先で笑った。
「ほら、アロエだったぞ。うん」
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