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***

湯気の立つ新茶を机の上に置き、私は営業スマイルを振りまいた。

「如何でしょう?」

デイダラさんの隣でサソリさんは黙って湯呑に口を付けた。
そして熱いお茶を一息に飲み干した。
猫舌には信じられない行動だ。
いや、猫舌でなくとも出来ない行動だ。
慌てて淹れた為にそれ程熱くなかったのかもしれないが、
十分な熱湯のハズだ。

「香りが少ねぇ」

十分蒸らさなかった事を指摘された。

「善処します」

頭を下げてその鋭い視線から目を逸らした。
そして頭を上げて今度はデイダラさんを見る事で視線を戻さない。

デイダラさんは顔が先程よりも膨れている。
私が逃げた間に捕まって殴れたのだろう。
身長から考えて、少し難しいとは思いつつ、
実物が目の前にあるのだから間違いは無いだろう。

「それで、俺が何だって?」

サソリさんは深くソファに座り、隣のデイダラさんの髪を掴み訊ねた。
私にも先程と同じように座るよう命じた。

「俺が傀儡から出たら何だって、デイダラ。
『しかも』の続きを聞いてやる。さっさと話せ」

眼光が、
眼光が見えた。

逆らう勇気も無く、私は先程の場所に座り、デイダラさんの反応を待った。

熱い湯呑に手の平で風を送り、冷ましながらデイダラさんは必死にサソリさんと目を合わせようとしない。
それが許されるはずも無く、
サソリさんはデイダラさんの髪を掴んで、
無理矢理視線を合わせた。

「俺は気が短いんだ」

「旦那の気が短いことは知ってるって、うん。
youはオイラよりも旦那の方が年上だって知らないから、
オイラが親切に教えてやろうとしただけだって、うん」

必死に取り繕うデイダラさんに加勢すべく、
予想はしていたが私は驚くことにした。

「そうだったんですか。
サソリさんはデイダラさんより年上だったんですか?」

最後に疑問符を付けて、訊ねてみた。
髪を掴まれて必死に抵抗するデイダラさんをものともしないサソリさん。
気がそれて髪を離していただけると大変精神衛生上助かります。
デイダラさんは何かあると「爆発する」と物騒な事を仰るので。

私のささやかな作戦は成功し、サソリさんはデイダラさんの髪を離した。

しかし、何故サソリさんの方が背も低いし、力も少なそうなのにデイダラさんは負けるのだろうか。
不思議だ。

「当り前だ、こいつなんてまだまだガキだ。
こんなガキよりガキに見ていやがったのか、youてめぇ」

動かない表情で、目の奥だけで睨みつけられる。
その無機質な表現方法が怖い。
むしろ人形の方が人相は悪いが表情豊かだ。

「すいません! あまりにもお若く見えるので」

謝り倒した。

サソリさんも多少なりとも自覚があるのかそれ以上は何も言わず、
視線を下に向け自分の手を見た。
小さく溜め息を吐いて、体に対して大きい服に手を引っ込めた。

「それにしても、デイダラ。お前が親切心を起こすなんて珍しいじゃねぇか」

未だ冷めやらぬ湯呑に息を吹きかけている時に、
サソリさんは不意にデイダラさんに声をかけた。
どうやら、デイダラさんの言葉の続きが違うと思ったらしい。
それもそうだ。

デイダラさんが私にわざわざ年について教えてくれる理由は特にない。
多分、他に何か言うつもりだったのだ。

予想してみる。
「しかも、サソリの旦那はアレで何でもやるもんだから、本体が人形かと思った」
これは私の考えだった。

デイダラさんは一体何が言いたかったのだろうか?

「そうだろう? オイラは親切なんだ、うん」

デイダラさんが身を屈めて湯呑から顔を離した途端、サソリさんの足が動いた。

同時に飛び退ったデイダラさんの手には湯呑がある。
湯呑の中には淹れたばかりの新茶がある。
時間が無くて蒸らしきれなかった、熱いお茶がある。

「あっ」

思わず声が漏れた。
続いてデイダラさんの悲鳴が響いた。

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