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乙女のたしなみ、というか前の茶屋には度々自動車が突っ込んで来ていた所為で服が破れるなんてよくあったおかげで、小さい裁縫道具は常にカバンの中にいる。
新しい制服が手に入るのには数日時間がかかるし、破れたままというのは恥ずかしかったから自分で繕っていた。

それ程上手くなかった裁縫も手先が器用な店長に乗せられて上達した。
簡単な繕いなら出来るようになっていた。
(店長、貴方の店で学んだ多くは何故か素晴らしく役立ちます)

再び壊されたという扉を揺らして事務所に入る。
デイダラさんとサソリさんは後から入ると言ったからだ。
そんなレディファーストいらないのに。

入った途端にここは本当に昨日来た事務所だろうかと目を疑った。
小さい窓が在った場所には大きな穴が開いており、足元の床に幾つも穴が開いていた。

「風通しが良くなってるんですが」

穴の向こうにかろうじで残っている壁も凹んでいる。
その穴から吹く風が少し髪を撫でる。
風の中に血の臭いがする。
自動車が突っ込んできた直後によく似ている。

突然、破裂するような音が体に叩きつけられる。
そしてやってくる電気を積み込んだ、暴走している自動車。
舞い上がる砂ぼこりと、ガラス、木の破片。
やおら上がる悲鳴。
焦げた臭いと血の臭い。
あの光景にどこか似ている。

「うん? そうだな、うん。あんまり動じないな、流石あの店で働いてただけある」

冷めた笑いと引きつった顔を隠して、笑った。
あんまり嬉しくない褒められ方だ。

「喉乾いた、水とってこい。うん」

「はい」

壊れていない床の部分を慎重に歩いて給湯室に向かう。
何度か足を取られそうになりながらも、なんとか給湯室に辿り着くと割れた湯呑や食器が散乱していた。
渋い顔をして、戸棚に残った無事な湯のみを二つ洗って水けを拭き取り、冷蔵庫から冷たい水を取り出して注いだ。

無骨な木の盆に湯のみを二つ乗せて応接間へ戻ると、床に板が渡してあった。
壊れた床の応急処置だろう。
板を跳ね返さないように歩いて、長椅子に座っているデイダラさんの前に置いた。
赤い雲の描かれたコートは脱いで長椅子の背に掛けてある。
首を振ってサソリさんを探しても見当たらない、仕方なく机の真中に湯のみを置いた。

「じゃ、これココで縫ってくれ、頼んだぜ。うん」

湯呑を片手に掛けてあったコートを渡してくれた。
受け取ると見た目以上の重さに腕が痛んだ。
そこで体勢が崩れ床の板がずれて、




落ちた。

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